ひとり | ナノ



14


彼女が怒ったところは見たことがなかった。
しかし、それは俺が嫌いとか、彼女が怒れない性質だとかではない。
ただ単に、俺に怒る部分がないのだと、氷雨は笑った。
一生懸命に努力している、片付けもちゃんとする、お手伝いだってする。
聞き分けがいいし、我儘も言わない。
まとめると、そんなところか。
本来なら、世話係として、家事だけやっていればいいのだ。
それでも、俺に係わって、笑いかけて、手をつなぐのは、何故なのだろう。
疑問に思うが、聞いても、きっと笑って誤摩化されるか、好きだから、と言われるのはわかっていた。
だから、俺は何も言わなかったし、彼女も何も言わなかった。
セフィロスくん、
俺の耳に優しく響くその声は心地よくて、思わず、微笑む。
氷雨はにこり、と笑って、俺の頭を撫でた。
でもね、わがままはいってくれると、うれしいな
首を傾げる彼女に、我儘?と繰り返す。
彼女は小さく頷いて、空を見上げた。
もちろん、ないようにもよるけど、セフィロスくんのこと、もっとしりたいから
例えば、どんなものなのだろう。
不思議に思って問えば、彼女は驚いた顔をして、考え込んだ。
ごはんのきぼうとか、したいこととか、かなぁ
首を傾げて笑う彼女に、抱きついてもいいかと聞く。
瞬きを繰り返してから、
もちろん、
と笑みを深める彼女をぎゅうと抱きしめた。
柔らかくて壊れそうなその体は、小さく震えていて。
そとにだしてあげられなくて、ごめんね
と、悲しそうに囁いた。
確かに外に出たいと思っていたが、彼女がいればそれでいい。
純粋にただそれだけを思った。
ふわりと優しい香りが肺を満たす。
目を細めて、それから、彼女の耳元で囁いた。

ずっと、いっしょにいて


どこまでも一途に、俺を包み込んでくれた人。
(表情は見えなかった)
(だから、悲しげな微笑みは視界に入らない)

「大好きだよ、」


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