ひとり | ナノ



13


目が覚めて、美味しそうな香りに気がつく。
彼女がきれいに笑って、今日のメニューを告げてくれる。
基本的に実験は午後からなので、午前中は勉強をする。
与えられた本を読み、文献に目を通し、様々なことを吸収する。
前、彼女が疑問に思っていたことに、答えを返したとき、褒めてくれたのだ。
すごいね、がんばっているんだね、
と、目を細めながら、頭を撫でてくれた。
それから、俺は元から嫌いではなかったこの読書の時間をきっちり過ごすようになった。
それに、この時間は、彼女が隣に座っていてくれる。
部屋にある二人掛けのソファー。
氷雨が来るまでは、近寄りもしなかったそれ。
穏やかな光を浴びながら、ゆっくりとした時間が過ごせる大切な場所に変わった。
彼女の横顔を盗み見ていると、時折目が合って、くすぐったそうに微笑む。
お昼頃になると、彼女とともに昼食を作る。
手伝っているだけなのに、彼女はありがとうと、柔らかに口角をあげる。
一緒に食事をして、俺は実験に向かう。
その間に彼女は掃除や洗濯をしてくれている。
実験が終わる頃に迎えに来てくれて、一緒に部屋に戻る。
それから、ほとんど終わっている夕食の準備を終わらせ、共に食事。
食事中の話は今日読んだ本についてだったり、雲の形だったり、と他愛のないことばかりで。
うん、
と、嬉しそうに頷きながら俺の話を聞いてくれる。
思えば、つまらない内容で、でも、俺は幸せだった。
くだらないことでも、俺の心に残ったそれは、昔では無機質で記憶にすら残らないものだった。
こんな風に笑う日が来るなんて。
そのままを告げれば、氷雨は頬を緩めた。
わらってくれて、うれしいな
理由は言ってくれなかったが、破顔して俺の髪に触れた。
俺を撫でながら、歪められた表情は喜色に満ちていて、思わず首を傾げる。
どうかしたのか、と聞いても、彼女は首を左右に振るだけ。
じ、と氷雨の顔を見つめる。

ふと、疑問に思った。


いつも笑っている理由を聞いた。
(綺麗な瞳を大きくして、数回瞬いて、)
(それから彼女は照れたように笑った)

「セフィロスくんと一緒にいられて、幸せだから、かな?」


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