ひとり | ナノ



09


ああ、彼女がいない。
食事も、一人。
彼女の料理を思い出しながら作ったそれも、同じ味にはならなくて。
実験に行くのも嫌になった。
それでも、彼らは実験とその結果が欲しいのだろう。
毎日飽きもせず、同じ実験を繰り返す。
氷雨に会いたかった。
おかえり、とあの笑顔で言って欲しかった。
本も、空も、俺の心を動かすものはない。
そのときにやっと気がついたんだ。
俺が彼女をどれだけ好きだったのか。
勿論、この時の好きは親愛であって、恋愛ではなかった。
いや、もしかしたら既に恋慕していたのかもしれない。
とにかく、彼女がいなくなって喪失感を覚えたのは間違いなかった。
一体自分は何をして過ごしていたのか。
それすらもわからなくなるような、日。
たった一日彼女がいないだけで、俺は、自分自身さえ見失った。
翌日、不満そうな表情の宝条が部屋にやって来た。
彼女は生きている。
ただそれだけを伝えに来た宝条。
たった、1つのその情報に心が躍る。
ああ、彼女が生きている。
嬉しくて、その日の実験はそこまで嫌な気分にはならず、終えられた。
また、彼女に会える。
口元が緩むのを抑えられない。
ああ、あの人がまた一緒にいてくれる。
あの笑顔がまた見られるんだ。
実験が終わり、外に出ようとした、そのとき、研究員が呟いた。

あんな化け物、あの女よく世話してたよな。


日常が色褪せた。
(彼女が帰ってこない可能性があるのだと思い知らされた)
(辛くて辛くて、体が裂かれる方がましだ)

「私の新たな仕事、ですか?」

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