ひとり | ナノ



07


今までの世話役はどうだったか、よく覚えていない。
それは俺が興味を持って彼女らに対応していなかったこと。
彼女たちが俺のことを心から嫌っていたことが関係している。
だが、そんなことはただのいい訳でしかない。
実験動物である俺を傷つけることは好まれないから、もしかしたら戦えなかったのかもしれない。
氷雨について、戦闘能力は考えていなかった。
思いつかなかったといってもいい。
そんなこと考える暇もない程に、彼女との日々が楽しかったのだ。
毎日の食事、遊び、会話。
実験については、印象は別にどうとも変わらなかったが、嫌ではなかった。
なぜなら一緒に住むようになった翌日から彼女がいつも迎えにきてくれていたから。
初めて迎えにきてくれた時はあまりにびっくりして、思わず目を疑った。
疲れて、実験室から出たとき外の椅子に氷雨がちょこんと座り、にこりと笑うのだ。
おつかれさま、がんばったね
そう言って、俺の頭を撫でた。
俺は何も言えなくて、頷くことだけしか出来ず。
それでも彼女は嬉しそうに笑って、俺に手を差し伸べた。
さあ、かえろう?
帰る場所が出来たことが嬉しかった。
一緒に帰る人がいるのが喜びだった。
おかえり、
ただいま、
そんな普通の挨拶が楽しくて仕方なかった。
普通の平穏が愛おしいものになったのはそんな氷雨との日々のおかげだ。
幸せすぎて、実験に行くことも少しだけ嫌ではなくなった。
彼女が気にするから怪我もしないように気をつけて。
そう、自分の幸せに手一杯で、共に築いている彼女をちょっとだけ、疎かにしてしまったのだ。

浮かれていた俺はうっかり失念していた。


世話役は戦えなかった。
(精神的にはとても強い人だった、)
(それこそ俺なんて目でもないくらいに。)

「おい、ちょっと顔貸せ。」

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