Agapanthus | ナノ



07


パーティーはほとんど食事会だった。
全員が満腹になった頃、外に何台かの黒塗りの車が止まる。
明らかに見た目からして高級車であろうそれは、常連たちからすれば見慣れたものであろう。
だが、この喫茶店に自力では常連と言えるほど通うことのできない新婦やそういった世界を知ってはいるものの関わっていない店主には頭の痛いものでもあった。
店主の友人は仕事の関係で見慣れているらしい…とはいえ、当たり前として受け入れることはできないのだろう、どこか引きつった顔をしている。
そんな中、一人の男がマイペースに声を上げた。

「氷雨は俺が連れて行こう。皆は先に行っていてくれ」
「えっ…そんなご迷惑は」
「だが、ここの片付けをしてから移動するだろう?俺も君が淹れてくれた茶で一服したい」

ダメか?と微笑みながら整った顔を店主へと向ける鶯。
ともすれば女性的な装いをしても違和感のない玲瓏な顔立ちだが、今日は和服をきちっと着こなしている。
優雅な動作でカウンターに腰掛け、にこり、と店主に笑いかければ、獅子はわかった、と簡単に頷いた。
店主もそれでいいのか、わかりました、と少しだけ困ったように笑ってから、すぐに片付けのために手を動かし始める。

「なら、私手伝うよ?」

ここで働いてたし、と続けた日華に首を左右に振ったのは鶯。
二人は常連になる前、つまりバイトと客だった時からの顔見知りであるためなかなかに気心が知れているらしい。
その様子だけで、一瞬彼女は戸惑う。
手伝って少しでも片付けを終わらせるべきなのか、それとも、友人の指示に従って先に移動するべきなのか。

「確か鶯の車は二人乗りだろう?なら、俺の片付けが終わったら俺が彼女を送ろう、どうだ?」

着替えもいろいろの片付けもあるからな、と言葉を挟んだのは鶴だ。
ああでもないこうでもないと意見を交わすのは無駄だと判断したのだろう、その場のほとんどがそれを了承しあっさりと移動を始めた。
流れに乗れないのは、この店の常連たちの空気に慣れていない一期と江雪くらいなものだ。
では後でお伺いしますね、と客たちを見送った店主にカウンター席からひらりと手を振る鶯、洋服が汚れないように胸当てエプロンをつけながらお酒残しておいてくださいね、と笑う日華。
最後に何に使ったのか、どこに置いていたのか、数々の段ボール箱を楽しそうに運び出している鶴。
さすがにスーツのままでは動きにくかったのだろう、上着を脱いで袖をまくり上げている。
がらん、と4人に減った店内で、店主はふと思い出したように手伝ってくれている親友に問いかける。

「そういえば、日華は鶴さんとはあんまり時間被ったことないんだっけ?」
「ん?うん。いつから来てるの?」
「鶯さんとほぼ同じだよ」
「えっ」

洗い物をしながら、答えた店主の言葉に、日華は動きを止めた。
その反応を予想していたというように肩をすくめた店主は、視線を鶯へと向ける。
店主へと流し目で返して、一口茶を飲んだ彼は、ふぅ、とため息交じりの息をついて、緩慢とも優雅とも取れる動きで洗い場に皿を運び終えた女性を見た。

「俺と氷雨みたいなものだ」
「ああ…時間が奇跡的に合わないあの感じ」

苦笑気味に頷いてみせる彼女の隣に自分の荷物は片付け終わったらしい鶴が並ぶ。

「君もここでバイトを?」
「はい、高校在学中と…大学に入ってからお小遣いが欲しい時に」

からりと笑い飛ばした彼女は、他に手伝うことはあるかと問いながらキッチンの方へと向かった。
店主は食器を水を切った皿を自身の周りを見回して、首を左右に振ることでもう手伝うことはないと伝える。

「じゃあ先に行ってて?私着替えないといけないし」
「はぁい、じゃあ、先行くね、鶴さんお願いしてもいいですか?」
「任せておけ」

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