Agapanthus | ナノ



11


部屋の中心へと足を進めた鶴の目の前にいるのは本日初対面であったが、すでにただの知人よりも距離感の近くなった日華だった。

「やあ、どうしたんだ?」
「あれ、鶴さんこそどうしたんです?」

ぱちり、と瞬いた彼女は江雪と話していたんじゃ?と続ける。
それには言葉で答えず視線を向けた鶴。
視線を追いかけた先にいたのはいつもよりもリラックスしたように話す店主と視線を彷徨わせながらも笑みを浮かべ対応する江雪。
その二人を視界に入れて驚いたように彼女は声を上げた。

「…まさかの鶯さんにライバル出現」
「驚いたな」

二人して呟いた後に顔を見合わせて笑う。
クスクスと溢れる声を抑えて、先に瞳を見つめて表情をいたずらに輝かせたのは鶴だった。

「君も知っているんだな」
「鶯さんが早々に私に伝えてきましたからね」

最初は本当にビックリしましたよー。
なんて、軽く笑った日華に鶴は笑いながら頷いた。
その様子は馬鹿にしているようなものではなく、いうならば微笑ましいものを見る感情であり、滑稽な何かを目撃した時の感情だ。

「あいつも案外余裕がないらしい」
「側から見てるとマイペースっぽいんですけどね」

くすくすと笑いあう二人は暫くその話を肴にすることにしたらしい。
腰を落ち着かせて座りながら、お互いの顔を見合わせる。
酒のためか、少しだけ頬が染まっている日華はすぐに視線をそらして肴に視線を向けた。

「氷雨の方は全然気がついていないみたいですけど」

小さくため息を吐きながら、視界に入ったらしい髪をそっと耳へとかける。
いつの間にやらノンアルコールに変わっているそのグラスを傾けて、どうなるんでしょうかねぇ、と微笑んだ。
からり、と氷がぶつかる音がして、空いている手でバーテンダーが眉を寄せながら出してくれたつまみを口に運んだ。
飾らない様子に鶴は一度瞬いてから、嬉しそうに目を細めた。

「この間、俺のディナーショーに二人を招待したんだが…」
「えっ」

きらきらと瞳の中を光り輝かせて、彼女は鶴をまっすぐに見つめる。
マジックが本当に気に入ったのだろうと判断した鶴は彼女にニッコリと笑った。

「今度招待しよう。ここであったのも何かの縁だ」

いたずら小僧のような明るいやんちゃささえ感じる鶴の表情につられたのだろうか。
日華は少女のような純真さで、嬉しそうに本当ですか?と喜色を隠さずに首をかしげた。
それほど喜ばれて嫌な気はしないのだろう、鶴はもちろんだと笑って見せて、照れ隠しなのか視線を店主と江雪の方へ向ける。

「あとで、氷雨か鶯伝いで連絡する…ついでにあの二人も呼べば君も寂しくないだろう?」
「はい!…ちょっと私が間に割り込んだみたいになりそうですけど」
「あっはっは、大丈夫だろう。鶯が君に自分の気持ちを教えたということは君のことをかなり信頼していると見ていい」

少しだけ顔を日華の方へと向けて、ぱちり、片目を瞑った鶴は人差し指を口元に立てる。
内緒、のポーズが様になっている美丈夫に彼女は小さく息を飲んでから、すぐに頷いて笑う。
首の後ろで尻尾のように結ばれている白い髪の毛が揺れた。
鶴は少しだけ勢いをつけて立ち上がって、瞳を慈しみに和らげる。

「俺が氷雨を思うのと同じように、鶯は日華を想っているだろうよ」
「…なんだか、照れますね」

日華は視線をそらして、目元を少しだけ朱色に染めた。

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