Agapanthus | ナノ



09


扉をくぐれば、いや、くぐらなくても、そこは華やかな世界だった。
一目でいいものだとわかる家具に目を向けながら、四人はすでに二次会が始まっているその部屋へと案内された。
扉を開ければ視線が集中して、待ってたぜ!とこの家の主人である獅子が楽しそうに両手を広げる。
その奥にバーカウンターがあり、バーテンダーがいるのを目にして店主は気が遠くなる思いだった。
が、さらにそれに追い打ちをかけたのはそのバーテンダーが知人であったことだろうか。

「リカちゃんなんで獅子さんのとこに…?」
「…依頼されただけだ。それより、光忠がうるさい、連絡くらいしてやれ」

褐色の肌に白のワイシャツと、黒いベスト、黒に近い赤の普通のネクタイ、顔は不機嫌そうではあるが、その瞳はまっすぐに店主を見つめる。
だが、同時進行であるその手は丁寧で、また、トリッキーな動きを平然とこなしていた。

「…わかった、兄さんには後でメールしとく。電話だとうるさいだろうし」
「相変わらずシスコンなの?光忠さん」
「鬱陶しいくらいにはな」
「ごめん、リカちゃん。なるべくリカちゃんに迷惑がかからないようにするから」

額を押さえた店主に同情するような視線を向けた彼は頼まれていたカクテルを作り上げて、すぐに視線を落として何かを作り始める。
小さめのグラスで差し出された、炭酸の泡が上がっている褐色の飲み物。
レモンが入っており、それを目にした店主は、手を伸ばしその小さめのグラスを手に取る。
一息で飲みきれるほど少量のそれをゆっくりと飲み干してから、彼女は一度視線を彷徨わせた。

「クロンダイク?」
「それ以外の味がしたか?」
「…兄さんの世話焼きをリカちゃんが一身に背負ってくれないかな」
「だろうな」

はん、と鼻で笑ったバーテンダーと店主の意味の繋がらないやりとりに鶴と鶯は首をかしげた。
二人はその兄について話し始めており、二人の視線は理由を知っているだろう日華へと送られる。
視線の意味を正確に理解した彼女はちらりとバーテンダーと店主の方を見てから、肩を上げなんとも言えない表情をした。

「カクテル言葉、って知ってます?所々アレで会話進めるんですよ、あの二人」
「は?」
「ちなみにクロンダイク・ハイボールは『本音と建前』で…光忠さん、氷雨のお兄さん関連だとよく見ますね」

しょっぱい顔と称されるだろう表情で、話しこむ二人を見つめた日華は、その表情をすぐに和らげて二人の方へ歩く。
いつものちょうだい、と明るい声をかける日華にわかっていたとでも言うように、ゴールデンアップルを差し出すバーテンダーはその鋭い視線を後ろの二人へと向けた。
ただの注文の催促だと、店主の声が聞こえなければ二人はどうしたものかと固まったままだっただろう、というくらいには斬れ味のいい瞳だ。
二人はそれぞれ京秋とマルガリータを頼む。
鶯の注文に一瞬眉を顰めたバーテンダーだったが、すぐに動き始める。

「へぇ…マルガリータなんですね、鶴さん」
「なんだ?」
「面白いなぁと思っただけですよ」

意味深長な言い回しで、店主はふふ、と笑いを零した。
その視線は一瞬だけ日華の持つ白いバラに向けられ、それからすぐにただの私の邪推ですよと朗らかに微笑む。
鶴は、自身が渡した白バラからそうっと視線をそらして、鶯の前に用意された京秋というカクテルに目を見開いた。

「君はこんなところでもお茶なのか」
「ああ、茶は生まれた時から身近にあったものだからな」

真顔で言い切った鶯は、静かに口をつける。
満足そうに微笑んでから、ゆっくりと店主へと近づく姿を鶴は横目で確認する。
少し離れたところから眉を寄せた江雪からため息交じりの視線を向けれられれば、その視線を受けた鶴は席を立ち、部屋の隅へと向かった。

「鶯さん、あの二人って知り合いだったんですか?」
「ん?ああ…多分知り合いだろうな」

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