心配
が、巫女姫についても詳しく知るべきかと、続けて視る。
「…他人の傷を、ああ、やはり、あの少女か」
全身から、憎しみとも怒りとも取れる感情が立ち上るのを感じた。
どうしようもなく、その巫女姫が許せない。
そして、それによって、集中力が乱される。
これ以上は視られないか、と手を薙ぐように払って、目を開けた。
自分の手を見ながら、ゆっくりと握りしめる。
あの、少女が、私を巻き込んだ張本人なのだろう。
愛されるために、支配するためにこの世界に来たなどと、馬鹿か。
「忠告しておくが、呉に行くのなら、巫女姫に気をつけろ」
「それは、どういうことだ?」
「あれは国のことなど気にしない、自分のことしか考えられぬ質の女…呉はこのままでは滅ぶ」
「なっ」
若い軍師が驚いたような顔をする。
だが、それが事実だ。
私は眉を寄せ、押し出すような息を吐く。
それから、じっと彼らを視た。
が、問題ないらしい、一体何が違いなのかと一歩近づく。
「なるほど」
化け物に、あったからか。
ならば、魏のあの男も問題ないのだろう。
「ッ…またか」
左手から流れ出る血に眉を寄せる。
が、すぐに治る。
ため息を一度、それから彼女をちらりと視た。
目を見開き、近寄って、ぐいと引き寄せる。
「何故黙っていた」
「何を、ですか?」
「病だ…安静にしていろ」
額に手を当ててみるが、残念ながらわからない。
額と額が一番わかりやすいのだ。
頭の後ろの仮面を止めている紐を解く。
青い瞳で黒の瞳を見つめれば相手の動きが止まるのはいつものことで。
その隙に額を当てて、熱を確認。
微熱、と言ったところか。
すぐに仮面を付けて目許を隠す。
「何を赤くなっている、熱が上がったのか?」
「違ッ…います!」
「なら、休め」
「氷雨が付いててくれるなら休みます」
「熱による判断力の低下か…?化け物を隣に置くなんて馬鹿のすることだ」
「そんな綺麗な目をした化け物がいる訳ありません!」
私は認めません!と言い切った彼女に思わず笑ってしまった。
だからどうという訳ではないのだが、面白いとは思う。
とは言っても、付き合うつもりもない。
「かなり危ないな、早く寝た方がいい」
彼女の頭を何度か撫でて、すぐに後ろにいる人間に渡す。
早くお休みになってください、と世話を焼かれる様子を見て、多分大丈夫だろうと視線を外した。
心配私が、ではない。
彼女の目が私をそう見ていただけだ。