目的
甲板の端に座り込み、武器を構えたまま警戒を続ける。
食料はどうしようかと少し考えた。
だが、そういや、ここにそのままいなきゃいけない理由はない。
そうか、宿を借りたとして、それを礼として受け取ればいいのか。
明日は水に飛び込んで、もう人と関わらないようにすればいい。
気まぐれかつ、視えてしまったからと言って、助けるべきではなかったか。
はあ、とため息を吐きながら隠れるように、目を伏せる。
人間が多いこの場所で気を緩めろという方が無理なのだが。
「…さっきから何のようだ」
「我…魏文長」
「何しに来たかわからないが…違うぞ」
お仲間と思われたくはないだろう。
彼は、どうやら普通に友人がいるらしいし、私がどうする必要もない。
が、じっと私を見つめてくる彼は、そのまま目の前に座り込んだ。
「明日にしろ、面倒くさい…ッ」
いきなり右腕に痛みが走る。
が、これは慣れたもので、前触れもなく、怪我もしていない場所が痛むことは多々ある。
その原因を考えたこともあるが、思いつくこともない。
早急に治ることも深く考えない理由の一つだろう。
魏文長と名乗った男を追いやって、武器を握り、座ったまま目を伏せる。
眠ることはできないが、誰かが近づけば離れるなり、警戒するなりできるだろう。
そう思って、日が変わった。
案の定、一睡もできないまま立ち上がる。
「何のまねだ?」
「…だって、氷雨は昨日から何も食べていないでしょう?」
少し離れた位置で、彼女が食べ物を持ってこっちを見ていた。
ちなみに、その後ろに軍師やら、何やらが勢揃いしている。
思わず仮面ごと額を抑えた。
「昨日、宿を借りた。礼はそれで十分だ」
踵を返して、船の縁に乗り、道を視る。
「南、いや、東か…何を示している?」
明らかに道は何処かへ私を導こうとしている。
口元に手を当て、眉を寄せた。
私を導くとすれば、あの声だろうか。
「関わらない道を探しているはずなんだが…天命か?面倒くさい」
「あなたには、何が見えているのですか」
「…答える義務はないな」
後ろから告げられた声に、静かに返す。
仕方ないが、詳しく視てみることにしようか、と意識を集中させた。
両目を伏せて、右手を前に伸ばす。
「呉…巫女姫、?」
なるほど、天は私に復讐せよとでも仰せになられているらしい。
それで、呉に向けて私の道を作っているのか。
だからこそ、彼女を助けるべきだと、いや、巫女姫だかに会うことこそが、私の天命とやらで。
その巫女姫に会うためには、彼女を助けるのが手っ取り早かった、そういうことなのだろう。
「面倒なことだ、私は、関わり合いになりたくないのだが、」
目的とはいえ、力云々についても、あの声の内容についても聞きたいことがある。
目指すのは、彼らと同じ呉になるのだろう。