化物
私がそう告げれば、彼女は驚いたように目を見開く。
そして、痛ましい表情をしてみせた。
それが不思議で首を傾げる。
「どうした?早く行った方がいいぞ」
敵が、何処まで来ているか、視た。
近い。
「早く行け、もうすぐ来る。もう子供と離れたくはないだろう?」
そう問いかけるが、返事はない。
が、気配は残っている。
思わず振り返れば、泣いている彼女がいた。
世話が焼ける、と彼女の腕を掴み、適当な男に押し付ける。
が、離れようとした瞬間、彼女が私を引っぱりこみ、船がそのまま出発した。
「…どういうつもりだ?」
低く、殺気まじりの声が出る。
こんなに人の多い所は嫌いだ。
いや、正確を期するのであれば、人は怖いから、近寄りたくはない。
苛立ちと恐怖で持ち替えた撃剣を握りしめる。
彼女は、にっこりと笑った。
「氷雨にお礼をしていないわ」
「いらない。放っておいてくれ、関わりたくない」
仮面の奥で眉を寄せて、視線をずらす。
と、色合いが似たような仮面を付けた男がいた。
…いやいや、この仮面オリジナルだし、知り合いいないし。
そう思って、歩き出そうとした、ら。
目の前に筆を持った異国風の男がいた。
「退け」
「それはできないよぉ〜」
一瞬、記憶が蘇る。
私が故意的に思い出さなかった、彼方の記憶。
この世界は、無双?
だが、それにしては、今この場所にいるメンバーが可笑しすぎる。
いや…私には関係ないか。
道を視る。
す、と身体を動かして、彼を抜いた。
それによって囲まれていた状態からぬけ出したことになるのだが。
道をあけてくれないアイツが悪い。
そう思いながら、道を視て進む。
誰も来ない場所、もしくは人が殆ど来ない場所へ。
「え、どうして君は抜けられたんだい?」
不思議そうにする無精髭の生えた男。
じっとその顔を見てから、はん、と鼻で笑う。
「化け物だからだ」
そう告げて、すぐに前を向いた。
化け物だと認めてしまえば早いのだ。
異常な治癒力も、視えてしまうのも、武力だって、そして、迫害され嫌われる理由だって。
簡単に受け入れられる。
私は化け物で、異形で、嫌われるべきもので。
泣いた赤鬼のように、優しい青鬼もいない、ただの怪物。
人の形に似た、別の何か。
「なんら獣と変わりない」
怯え、殺し、奪い、ただ、生きる。
「いや、獣以上に堕ちた何かか」
化物そう、人ではない、だから、人に嫌われる。
…だから、人を嫌う。