名前
迅雷剣を装備して、必要ならば斬って捨てた。
彼女の体力が無くなれば、休憩も挟んだ。
だが、彼らは、道は、待っていてくれない。
悩んだ末、彼女に背を向けてしゃがみ込んだ。
「乗れ」
「え、」
「早く、我が子に会いたいのだろう?」
そう声をかければ、彼女は頷いた。
彼女を背負い、走り始める。
私は傷ついてもすぐに治るのだから、本当は抱きかかえて走っていった方が安全だ。
しかし、武力は増えても、筋力が増えた訳ではないので、抱きかかえられない。
だったら、背負って走り抜けるしか無いだろう。
馬にも乗れない訳だし。
地面を強く蹴る、視れば、後ろから追ってきているのは将らしいこともわかる。
道を、探さなくては。
「近道なら、西、か」
かなりの高さから飛び降りることになるが、まあ、折れてもすぐ治るだろう。
橋を渡ってから、西に向かう。
まだ、人が残っているのが見えた。
ついでに、武器を振るっている男が数人いるのも確認できる。
「掴まってろ」
「はい!」
崖から、飛び降りた。
ダンッと大きな音がして、たいした怪我もなく着地できる。
そのまま彼女を下ろし、迅雷剣を構えた。
「どれがあなたの知らない人間だ?」
「あの、青い男です」
「なるほどな」
とはいえ、彼女の味方と思わしき人間が近すぎる。
撃剣に持ち替え、一気に距離を詰めた。
他の人間に気を取られている間に後ろから首筋に刀を添える。
「止まれ」
「ッ、何者だ!」
「さぁな。退くか?それとも、死ぬか?」
静かに問いかければ、彼は悔しそうに眉を寄せた。
離してやれば、私をじっと見つめてから、踵を返す。
撃剣をしまって、彼女の元へ戻った。
先ほどから動けていない彼女に怪我がないか確認し、一度視えた男の元へ連れて行く。
男は気がついたのか、隠していた少年を彼女に押しやった。
泣きながら、良かったと笑う彼女を見てから、降りてきた崖を見る。
流石に登れそうにないか。
はあ、とため息を吐いて、頭を掻く。
仕方ない、反対から帰るか。
迅雷剣に装備を変えて、歩き始める。
「待って、あなたの、あなたのお名前は?」
「…名前?…嗚呼、名前か、何だったかなぁ」
自分で言って胡散臭いと思った。
が、実際は必死に思い出そうとしていたりする。
ふと、思い出した。
「ああ、そう、氷雨だ。多分、そう呼ばれていた気がする」
名前いやぁ、自分の名前を忘れることがあるなんて思ってもみなかった。
…あれ、名字、なんだったけ?