質問
「そうそう、私のことは、軍師ではなく、孔明と」
「…頭脳派は字で呼びあうとでも言う決まりがあるのか」
まったく、と言葉を続ければ彼は可笑しそうに笑う。
そんな顔もできるのか、と彼を知っている訳でもないのに思ったのは、食えないからに違いない。
はあ、とため息を吐いてから、わかった、とだけ受け入れる。
「孔明に元直、士元で構わないか?」
「ああ、もちろんだよ」
「あっしも構わないよぉ」
「…軍師の弟子に睨まれそうだがな、ああいうのは苦手だ」
一直線のわんこ型。
本当にやめて頂きたい。
しかも、中途半端に食えない。
わんこ型であっても、可愛いタイプなら平気だ。
逆に、全く食えないのも、それはそれで問題ない。
だがあのタイプはジャストミートで苦手だ。
「あなたにも苦手な方がいるんですね」
「…呉の巫女姫を彷彿とさせるからじゃないか?」
思わず眉をしかめる。
「別に、悪い人間ではないのだろうとわかってはいる」
ただ、許せないのだ。
自分は帰れる可能性を持ちながら、呉を歪めていることが。
帰る可能性を捨てているのなら、私の怒りも幾分か、ましになるだろう。
その呉の巫女姫と、弟子は性格的には似ているのだ。
ただ、手段をどう考えるか、基準は何処におくのか、が違う。
大きな違いではあるが、巫女姫を彷彿とさせられる時点で、例外的に無理。
「それはどうでもいいとして、私の地位はどうなる?」
「そうですね、まずは元直の補佐からお願いします」
「へぇ…元直の、てっきり士元かと」
驚いた、と告げれば、むしろ驚いたように視線が集中した。
首を傾げて、臥龍に視線を向ける。
「どうしてですか?」
「ただ単に、士元の方が情報を引き出しながらも引き込めるだろ」
「それは俺が弱いってこと、かな?」
「違ぇよ、お前自分に自信は無さそうだが、自分が間違ってるとは思わないだろ?簡単に言えば頑固?」
視てないから、あってるかはわからないけど、と続けて、すぐに話を戻すよう告げる。
仕事内容を聞かないことには、何とも言えないだろう。
それに色々時間も作らなくてはならない訳で。
一応、私を気にしているらしい従弟殿には、毎日会うようにするべきだろう。
子育て将軍は教育係な訳で、多分半日はそっちか。
ついでに槍も教えてもらうし…彼女のところにも、なるべく毎日顔を出した方が良さそうだ。
と、すると残りの時間が補佐の時間になる訳だが…午前中、の方がいいかな?
のだが、彼らにも言いたいことがあったらしい。
「ええ、だから、交渉においては元直、方向や方法は氷雨に任せようかと」
「それを聞くと補佐というよりは役割分担が適切だと思うが…。とにかく、時間の使い方は?」
問いかけると、きょとんとした顔が返ってくる。
どういう意味の顔かはわからないが、それについては放置。
好きにしていいなら、そうさせてもらう、と首を左右に振った。
「あ、寝泊まりは何処ですればいい?甲板でいいのか?」
「…それは流石にやめてください、私と元直と士元なら誰がいいですか?」
質問思わず言葉を失って、冗談だというのを待った。
彼はどうかしましたか?と首を傾げただけだった。