行動
誰かの部屋の場所を貸してもらえるというだけだとわかっている。
だが、それでも如何かとは思う。
どうするべきか、と視線を彷徨わせた。
「既婚者もしくは恋人がいるのは?」
「いませんね」
「三人共いないとか、何があったよ。お前らすぐできそうじゃんか」
はあ、とため息を吐いてから、嗚呼と顔を上げた。
「想い人は?」
「あっしはいないねぇ」
「俺もいないよ」
「私もいませんね」
ふざけんな。
思わず呟いてから頭を抑えた。
効率的に考えるならば。
「じゃ、元直。その方が補佐もしやすいだろ」
そう告げると、名を挙げられた本人がぱちりと瞬いた。
私と、二人を見比べて、首を傾げる。
「俺?俺はないかと思った、嫌いな人間の部屋には行かないだろう?」
「化け物であれば人間を嫌うが、人間であれば人を嫌う謂れはない。そもそも、何時私が君を嫌ってると?」
どっからどうやったらその解釈が生まれるのか。
眉を寄せるが、相手には見えていないだろう。
そう考えるとこの仮面は便利なのかもしれない。
相手に表情を読まれないというのは、強みとなり得る。
「え?じゃあ、俺のこと嫌いじゃないのかい?」
「ああ。むしろ話してみたいとは思うが」
「…そうか」
小さく笑う彼に首を傾げてから、だからと言って突っ込むのも面倒なので考えに没頭する。
子育て将軍の予定をこの後聞いて、その時間を中心にあわせよう。
外交のための知識すらない状況で一体何ができるのか。
様子を見ながら勉強と訓練に時間を一番当てて、従弟殿、彼女、そして仕事でいいだろう。
呉での行動を説明しておく必要もある。
「私からの質問は終わりだが、何かあるか?」
「いえ、特にありませんよ」
「何かあったらまた来る」
視れば、迷子にはならないだろう。
さて、では次に子育て将軍のところに行こうか。
道を視れば、甲板にいた。
何故か従弟殿と話をしているのだが、空気が怖い。
後回しにしようか、と少し悩むが、どっちにしろ話さなければいけないのに、終わるのを待つのも微妙だ。
「子龍、少しいいか」
「どうしたんですか?李雪殿?」
「私のことは氷雨でいい。あと口調も、私が教えを請う側なのに、何故君が畏まる」
「ですが、」
「その口調は距離を置かれているようで気に食わん」
軽く片手を振りながら告げれば、彼は驚いたような顔をしながら、こくりと頷いた。
「子龍はいつが空いている?その時間に教養と槍を教えてもらいたい」
「今の状況ならいつでも空いているから、好きな時間においで」
「そうか…わかった。なら昼辺りになると思う。それ以前は徐庶の元か、彼女の元にいる」
告げて、従弟殿を振り返る。
不機嫌そうな顔をしているのが気に掛からないと言えば嘘になる。
だが、私は彼にも話があるのだ、聞いてくれなくては困る。
行動さて、馬岱殿、君は夕刻何処にいる?
部屋だけど、答えた彼ににこりとだけ笑っておいた。