厄介
「掴まったわね」
少女の色をした声。
何処か同情めいて響いたその声に、首を傾げる。
彼女の隣にいる青年たちが、ほわりと笑う。
「趙雲殿は、誰かの面倒を見ているときが一番生き生きしてますね」
「…張苞みたいだな」
多分、軍神の息子たちだろう。
次男と三男だと思う。
思わずひくりと頬を引きつらせて、近くにいる子育て将軍を見る。
いやまあ、ついさっき玩具を手に入れた少年のような目をしていたのだから、変わっている訳もない。
とはいえ好きにさせておけばいいのだろう、多分。
「趙雲殿ばっかりずるいよー!俺だって李雪殿と遊びたい!」
「誰も遊ぶとは言ってない気がするのだが」
「でもずるい!」
はあ、とため息を吐きながら、じっとその顔を見る。
これ抉じれたら面倒くさい人間だと、視るまでもなく、本能が訴えてきているんだけど。
口元にゆっくりと笑みを浮かべながら、その腕に軽く触れた。
「馬岱殿はそこにあればいい、それではいけないのか?」
驚いたようにこちらを見る視線をいくつか感じる。
が、当たり前のように、無視させて頂く。
「さて軍師…話がある」
「ええ、勿論構いませんよ、時間はたくさんあるのですから」
「別にお前の貴重な時間を浪費するつもりはない」
するり、と彼の腕から手を離して、軍師についていく。
諸葛亮だけでなく、鳳雛・ホウ統と無名・徐庶までいるので正直面倒くさいが、致し方ない。
軍師、と纏めた私が悪いのだろう、遠回しに名前を呼べということか。
軍師たちに与えられた部屋について、深々とため息を吐く。
「何だ、あの面倒くさいヤツら」
「第一声がそれですか」
「お前らも含め、面倒なのが多いな…頭目も優しいだけの仁の人ではねぇだろ」
「劉備殿が、かい?」
「アレは質が悪い」
自分の性質を認識・理解しているにも関わらず、制御しようとしないタイプ。
彼の場合は人を引き寄せる。
尊敬を集め、更には心酔する人間も現れるだろう。
事実、この場所にいる民も武将もそうなのだし、私は接していないから平気だけど。
「あなたも、相当なものだと思いますけどね」
「あ?」
「確かにねぇ…お前さん、馬岱殿と趙雲殿に好かれるなんて、本当に厄介だ」
「それは、アイツらに主点を置いてか、それとも私にか、」
「あっはっは、そんなこと、お前さんならわかってるだろ?」
どっちも、ってことか。
二人が私を気に入った、そして、二人とも“自分だけ”の何かを探している。
私ならそれを判断することができるだろうし、振る舞うこともできる。
簡単に言えば取り入ることができる訳だ。
二人が気に入れば、私の存在は厄介、だが、そうなるには彼らが私に執着しているという前提が必要だ。
厄介明らかに、私は執着依存をさせる特質らしい。
そして、それを生きるために利用する私も、人のことが言えないくらい質が悪い。