狼心狗肺 | ナノ



人間
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就寝した彼女をじっと見て、席を立つ。
部屋から出て、先ほどの彼らの元へ向かった。

「説明と、認識の共有はできたか、軍師?」
「ええ、あなたが気を利かせてくれたお陰で」

羽扇を揺らめかせた彼の言葉に、それはよかった、と感情を一切込めず答える。
私のそんな返事にも腹を立てることはないらしい。
軍師は、羽扇を胸元に下げた。

「李雪殿、私は諸葛亮です」

どうやら、人間としての私の名前は李雪らしい。
舌の上で転がしながら、呼ばれて気がつくかどうか、と眉を寄せる。
が、まあ、気がつかないことは無いだろう。
それに呼ぶ人間も少ないのだろうからな。

「そうか」
「おや、聞かないのですか?」
「必要なら君が言うだろう?」

鼻で笑って、視線を彼の後ろに向ける。
警戒されている。
とは言え、当たり前のことだし、むしろ警戒で済んでいることに驚いている。

「それにしても、流石臥龍と言ったところか」
「ご存知でしたか」
「視られたくなければ、視界に入らないでくれ、としか言えない」
「しかし、一体何が流石、と?」

読めない顔に、目を細めて確認する。
が、視る訳ではない。
この力に頼っていれば、化け物であり続けることになるのだ。
もしかしたら、変われるかもしれない状況で、それ程間抜けなことはしない。
口元に笑みをはく。

「君の後ろ人間たちが、警戒で済んでいることだ」
「そんな人間、甘夫人が初めてでしたか?」
「…ああ、そうだな。彼女が初めてだ」

馴染まない方がいい。
いや、馴染めないだろう、と言った方がいいのだろう。
私は彼らと同一になれやしないのだ。
目を塞いでしまえば、変わるだろうか。
腕を落としてしまえば、戻るだろうか。
己をじっと見つめようとも、己が変わることはない。
それは、受け入れてもらえるような努力をしていないとも言える。

「生憎、人間との関わり方は…忘れてしまった」

そう笑ってみせて、何処へ行こうか、視線を動かした。
暫く船の上であることは変わらないだろうが、彼らの視線を受け続けるのは些か面倒くさい。

「ちょっと待ってよ、」

明るい声が聞こえてきた。
最初に私の邪魔をした異国風の男、馬岱、だろう。
彼に視線を向けると、何処か淋しそうな顔をして、私に近寄ってきた。

「忘れた、ってことは、」
「化け物とは言え、人の形をしている時点でわかることだ。言葉も話せるのだしな?」

からかうように告げたその言葉に、彼は動きを止めた。
おや?と首を傾げてみれば、私の腕を掴んだ。

人間
そんなの悲しすぎるよ、
小さな声に私は思わず笑ってみせた。

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