迷いなどなく凜とした、
久しぶりに、本名を呼ばれた。
自分で口にするのと、他人に口にされるのでは、全くと言っていい程違うのだ。
ああ、私は此処にいていいのだろうか、なんて思ってみたりして。
最終的にやっぱり、悪逆の私は受け入れられないだろう、と思いついた。
目の前で答えに迷っていた彼の視線が私に向かう。
迷いなどなく凜とした、「どうした?」
「私は、仁愛で有名な、ある女性君主に求婚され、家を飛び出してきたのです」
は?
突然の身の上話に驚いたが、しかし、だ。
彼の言っている仁愛で有名なある女性君主は、つまり、私と同時に落とされた、あの女の子だろう。
そう思いながら、不思議に思う。
彼女は傾国の美女…というよりも、二喬のような可愛らしさであるが、顔立ちは整っている。
性格は全くと言っていい程わからないが、噂ではかなりいいと聞く。
何が、不満だったのだろうか?
「仁愛が…嫌いか?」
「いえ、彼女は、仁愛などではない…間違いなく、悪逆です」
…えっと?
彼は何を言い始めているんだろうか。
なんか、氷雨様とはまるで逆で、とか言い始めてるんだけど、ちょっと理解できません。
この男は、一体どうしたんだろうか?
「関索…?一体何があったんだ?」
思わず問いかければ彼は穏やかであったのだが、時折辛辣な言葉を挟みながら、被害を話してくれた。
…なかなか、どころか、かなりストーカー的な、何かを感じるんですけど。
オラオラ系女子ですか、それとも肉食系女子ですか、はたまたヤンデレですか。
思わず頬を引きつらせれば、彼は自分の恋愛観をサラッと話してくれた。
それなんてヤンデレ、真っ直ぐな目が余計怖い。
なんて思ったけど、別に私はそういう関係な訳でもないし、部下の悩みを聞くのも仕事だろうと、割り切った。
だが、表情に出ていたのか。
「やはり、可笑しいでしょうか、」
既に誰かにいわれたのか、と思っていれば下の兄にいわれたそうだ。
父と上の兄はノータッチだったとか、関羽ェ…、関平ェ…。
「…中々に情熱的なのだと、思っただけだ」
「情熱的、ですか…?」
「それ程までに一途に相手を想えるのは、むしろ羨ましいと思うが…私には出来ないことだ」
と、そんな話をしていて現実逃避的に、気がついた。
確か、私に初めての縁談が来ていた気がする。
そう思うと確認しないといけないような気持ちになってくるのが不思議なもので。
とはいえ、私に縁談なんて寄越すのは、馬騰くらいだろう。
「氷雨様…?」