悪逆 | ナノ



気づけば全てを話していた
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下の兄には、酷く重い愛情だといわれた。
何も言わなかった父は、それでも、少し眉を寄せた。
恋愛自体がよくわかっていない上の兄は、理解できないと言った顔だった。
それで、自分の感情が一般とは違うのだと気がついたのだ。
元々、感性は母親譲りで、少しズレているのはわかっていたから、仕方のなかったことかもしれない。
そう思いながらも、柔らかな色につられるように、言葉を紡いでいた。

気づけば全てを話していた

やはり、受け入れられるものではないのだろうか。
いつか私のこの愛を受け入れることが出来る人に会えたなら、きっと、捧げようと思うのだろう。
私の持つすべてを持って、その女性を守り、慈しみ、愛し、手中に収めるのだ。
それが、彼女であればいい、そう思いながらも、感じさせないように気をつける。
無表情のままに私の話を聞いた氷雨様は、何も口にしなかった。
それが不安で、確かめるように聞けば、初めて聞いた、私の愛を認める言葉で。
息が詰まり、何ともいえない感情が胸の奥から広がってゆく。
が、彼女は他のことに気を取られているのか、私から視線を逸らした。

「氷雨様…?」
「ああ、すまぬ…確か私に縁談が来ていたか、と思ってな」

苦笑するような彼女の言葉に、ぴしり、と体が固まる。
どうせ、馬騰からの息子との縁談だろうが、と呆れるように続けた彼女は、静かに退出した。
仕事に向かったのだろう。
そう考えれば、私とこれだけ話してくれた、という事実は、私に心を開いてくれているのだ。
自分を慰めるようにしながら、次はどうするべきか、と考える。
このまま放っておいては、きっと彼女はその縁談に乗ることだろう。
ただでさえ、この国を任せられると言っていた相手だ。
彼方が、氷雨様をどう思っているか、それを調べてから次の手を考えなくては。
やっと、見つけたのだ。

「絶対に、私のものにしてみせる」

決意は揺るぐようなものではない。
今日まで仕えていて、確信したのだ。
彼女は、悪逆であるが、悪逆ではない。
そして紛うこと無く君主だ。
私は彼女からの信頼を勝ち得なくてはいけない。
今はまだ、少しだけ気を許してもらえただけで、それ以上でも以下でもない。
ただ、部下の一人として、言葉を交わすことを許されただけなのだ。
確か私の副将が元々は馬騰殿の治める土地から来たと言っていた。

「少し聞きたいのだけれど、構わないかな?」
「え?ああ、はい、何ですか?」

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