悪逆 | ナノ



憤るのは他人のため
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目の前に躍り出るように現れた彼は、真剣な目をして私を見上げた。
真っ直ぐな目が怖くて、思わず、一歩引きそうになる。
だが、私は、君主である。
決して、逃げることはしてはならない。

憤るのは他人のため

「貴女に信じていただけるまで、何度も言いましょう!」

私は、貴女を支えるために、貴女に仕えるためにこの国に来たのだと。

「そんな薄っぺらなもの、信じられると思うのか?」

真摯に見つめてくるその瞳に、侮蔑を返す。
何度、私は裏切られたか。
いや、裏切られた訳ではない、裏切らせてしまったのだ。
彼らの中には、裏切るまでの葛藤があった筈である。
それを知らぬ私は、ただ結果だけを与えられた対象者に過ぎない。
私の前に跪く男から視線を逸らし、その奥の宝玉を横領していた官吏に視線を向けた。

「牢に向かう、それから…これからを考えるんだな」
「貴様ッ」
「死を免れて、この男に着くもよし、仁愛や馬騰の元に行くもよし。無論、死を免れられぬ可能性が高いがな」

ふん、と鼻で笑いながら、官吏を引っ張っていく。
その一件はあっさり、といってもいい程片がついたのだが、この状況は何だ?
目の前の男は輝かしい笑顔で、横領やら、問題行為やらをしていた官吏たちを突き出してきているんだ?
っていうか、明らかにぼこぼこになってる人間が数人いるんだけど?
武将が文官をタコ殴りにしたらこうなるんじゃないだろうか、っていう見本例にしか見えない。

「これは…?」
「不正を働いていた官吏たちです、貴女のお役に立ちたくて、」

満面の笑みである。
驚くくらいの満面の笑みである。
もう一度重ねよう、ボロボロのおっさんたちを目の前にしているとは思えないくらいの完璧な笑顔である。
顔がいいとこういうときにも得をするのか、と関係ない思考になってしまった。
が、同時に、こんな愉快な考えに至ったのは何時振りだろうか。
そう思いながら、思わず、ふっと小さく笑ってしまった。
ら、こう、子犬が褒められた時のように、周りに花を飛ばしながら、彼は嬉しそうな顔をした。

「…褒めおこう、関索。よくやった」

信じる云々とは別にして、一斉検挙程有難いものはない、そう思いながら男たちの顔を見た。

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