悪逆 | ナノ



年相応の無邪気な笑み
しおりを挟む


厩で見たのは、初めての笑顔。
柔らかくて、それでいて、酷く弱々しいそれは、普通の女性だった。
武将ではなく、君主でもなく、ただ、守られるべき存在。
だが、そんな彼女が私に殺されることを受け入れている。
その事実は酷く心を乱した。
私は彼女を守りたいのだ。

年相応の無邪気な笑み

常に無表情を貫く彼女は、何処までも一途に国を思っている。
そう知っているのは、ほんの数人。
どうして彼女の悪い噂が広がっているのか、不思議に思う。
それでも変わることのない評判は、常に彼女を苦しめているのだろう。

「…何をしている」
「ッ?!」
「ほう?これは確か、あの村で取れる宝玉ではないのか?何故貴様の手元にある?」

彼女は酷く冷たい目で、その男を見た。
俺よりも位が上である官吏であるが、まさか、あの人が着服していたのだろうか?
驚いたまま見つめていると、その男は、彼女を攻撃しかけにいった。
それを片手で去なして、冷たい目で男を睨みつける。

「いい訳はしない、か。民の血税は国のために、ひいては、国にすむ民のためのものではないか?ん?」
「うるせぇっ!テメェだって、悪逆のくせに、仁愛ぶってんじゃねーよ!」

その叫び声に彼女は気分を害されたように眉を寄せた。

「仁愛?何処がだ、望まれてなかろうが我は君主だ。仁愛のみで国が治められると思うな」
「民に嫌われているくせに、何が君主か」
「民一人ひとりからの感情を真摯に受け止めては、国など治められぬだろう?」

違うか?と彼女は首を傾げて、首を傾げる。
男は剣を取り出して、構えた。
それを見ながらも、平然としている彼女は、首を左右に振る。

「君には…渡せないよ、この国はね」
「ッならば、誰になら渡せるというのだ…!」
「仁を求めたあの男に軍神の息子、あとは…隣国の錦馬超、難はあるが馬騰の下で育てば、或は、」

…私を殺して、国を、全土を纏めてくれるんじゃないかな?
そう続けて、愛らしい笑みを浮かべた彼女。
何を言われたのか、理解が出来なかった、それを理解した瞬間、思わずその場に飛び出した。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -