悪逆 | ナノ



正々堂々、真正面から
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信じられる訳がなかった。
それでも、同時に、どうしても信じたい気持ちもあった。
信じて、彼が答えてくれて、そんな夢物語だって、あって欲しかった。
彼を信じられないのではない。
彼の真心を、優しさを、信じることが出来ないのだ。

正々堂々、真正面から

いつも通り、防衛戦を行なう。
真正面からだけでなく、やってくる敵を正々堂々と叩き潰す。
とはいえ、一般兵はただの民草だ。
私の敵は彼らではない。
愛馬である、赤兎馬の焔に跨がって、敵陣を駆ける。
将たちは落として欲しい所だけを伝えて、自由にさせてある。
その隙に敵将たちを次々と撤退させていく。
徐々に敵本陣へ追詰めていき、最後にそこで決着を付ける。
終わったら、亡くなった兵を全員、敵味方関係なく埋葬し、手をあわせた。
怪我をした兵には今回得た利益のうちの一部から、手当を出し、働きに応じて将にも与える。

「焔、よくやった…偉いぞ」

ひひん、と嘶いた焔は、それからすぐに私に擦り寄った。
何度か撫でて額を押し付けて、目を伏せる。
離れてから、首許に両腕を伸ばして、抱きついた。
温かな体温にホッとしながら、軽く下唇を噛んだ。
焔に縋り付くのは初めてではない、どころかいつものことである。

「また来る…待っていてくれ」

返事をするように嘶いた焔に一度笑いかけて、色々片付けに戻る。
すべてを終わらせ、夕方になってから、もう一度焔の元へ向かった。
一応君主としての仕事はまだ残っているが、灯りをつけながら出来る程度のものだ。
それに、私が此処に来るのは日課で部下たちは大抵が知っている。

「おいで、焔」

鞍を外した焔に外から声をかける。
と、静かに出てきた赤い体、燃えているような鬣に手を伸ばして、ゆっくり体を撫でた。
前足を上げて嘶いた焔に口を緩めて、その場で飛び乗る。
そのまま駆け出すままにさせ、門番に声をかけた。

「今から出る」
「はッ!」

響いた声に笑みを浮かべて頼んだぞ、と答えて、焔の走るがままに任せる。
戦いの時では出せないような本来の速度で近くの開けた場所に向かった。
いつもの場所で止まった焔を撫で、命を落とした兵の名前を思い出しながら、目を伏せる。
沈み行く夕陽を何ともいえない気持ちで眺めてから、同じように急いで帰った。
それから、門に駆け込んで、城に戻る。
門番に声をかけると、焔が自分でゆっくりと厩に歩を進めた。

「いい子」

首筋を撫でれば、当たり前だと言うように鼻を鳴らす。
厩に到着し、焔から降りる。

「明日は、もう少しゆっくり出来る筈だから…もうちょっと走ろうね、焔」

撫でてから、ゆっくり深呼吸をした。
真っ赤な目が私を真っ直ぐに見てくれる。

「…焔くらい、かな?……だからと言って、やることは変わらないけどね」

小さく笑って、焔の顔を撫でると、気持ち良さそうに嘶いた。
すぐに焔に別れを告げ、自室に戻る。
さて、残しておいた仕事を片付けるとしようか。

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