悪逆 | ナノ



覗き込んだ瞳は涙に濡れて
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その国の噂は、最悪。
だが、実際訪れてみると、そんなことはない。
むしろ、他の国よりも優れているとさえ感じた。
それでも、君主の評判は酷く低い。

覗き込んだ瞳は涙に濡れて

少女とも、女性とも取れる、曖昧な年齢の女性が、路地裏で静かに泣いていた。
思わず声をかけたが、まともに話す間もなく、逃げるようにいなくなる。
小さく笑ってくれたその顔は、どうも、私が目指してきた人のようで。
真っ直ぐに私を見てくれた彼女に、どうやら、評判が間違っているらしいとわかった。
決して豪華ではない城に足を運んだ。
門番に士官に来たと言えば、怪訝そうな顔で私を見てから、通れ、と告げた。

「アンタが、出て行かないことを願ってるぜ」

門を通り抜けたときに聞こえた、悲しそうな声。
思わず振り返るが、門番は表情1つ変えず、前を見ている。
聞き間違いかとも思ったが、それにしては、余りにはっきりと聞こえた。
建物に足を踏み入れる。
すぐに、君主の元へ連れて行かれた。
そこにいたのは、間違いなく、あの時の女性。
私を視界に入れた途端、酷く傷ついたような顔をして、すぐに無表情に戻った。

「…出て行きたくなったら、いつでも出て行け」

無表情のまま、それでも何処か悲しそうな声で彼女は告げる。
私のことは一瞬しか視界に入れることはなかった。
その事実に、思わず眉を寄せる。

「私は出て行くつもりはありません」
「ッ…ああ…そう、か…好きにしろ。しかし、我とて抵抗はするぞ?」

くつり、と喉を鳴らして口角をつり上げた彼女の言葉にひやり、背中を冷や汗が流れる。
彼女は私が彼女を殺し、もしくは裏切り、この国を奪うと思っているのだ。
そしてそうなることを今既に受け入れてしまっている。
違う、と首を左右に振った。

「私は、貴女を傷つけるつもりはありません、貴女の部下になりにきたのですから」

続けた言葉には何も返ってこなかった。
ただ、最後にこちらをちらりと見た彼女の瞳は、私に期待なんてしていない。
何処までも暗く、深い闇を湛えて、見極めるようなそれであった。

「関索、私の名は関索、決して貴女の側から離れぬと誓いましょう!」

彼女の背中にかけた声に、彼女の側近までもがざわついた。
ああ、きっと彼女は孤独なのだ。
町での涙が、すべてを物語っているのだと、私は確信していた。

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