悪逆 | ナノ



疎まれようと、恐がられようと
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本名、白雲氷雨。
性別、女。
年齢、不詳。
武器、破城槍。
地位、ある国の君主。
名声タイプ………悪逆。

疎まれようと、恐がられようと

私が、この世界に落とされたのは、大雨のある日だった。
同時に落とされた女の子は、他の国の君主となっていて。
きっと、最終的に戦うことになるのだろう。
ぐ、と奥歯を噛み締めて、目を伏せる。
悪逆となってしまった私は、何をしようと嫌われる。
同じ悪逆を持つものと、知略の高い人たちには、まだ、それ程でもないのだが。
仁愛や武勇の人たちなんて、まるで、親の敵を見るような目で。

「…、」

思わず、涙ぐむことだってある。
優しく接して欲しいなんて我儘は言わないから。
私の民や部下を、悪く言って、一方的に攻めるのだけは、やめて欲しいのだ。
何時だって必死に国を良くしようとしている。
民あっての国だと、自覚だってしている。
なのに、名声タイプが悪逆の所為で、部下は離れていき、民には恐れられる。

「ッ、うぅ…」

城下での、私の評判を耳にして、路地裏に逃げ込んだ。
治安が悪い訳でもない。
だって、そういうのは、すぐに対処しているのだ。
ぼろぼろと溢れる涙を服の袖で拭って、唇を噛む。
民のために、なんて、恩着せがましいことは言えないのはわかってる。
この国に泰平を、なんて言ったって、信じてもらえないのもわかってる。
同じ悪逆の人間だって、同類だから嫌わないだけで、好いてくれることもない。
知略の人間だって、私を利用するだけ利用して、きっと、捨てることを躊躇わない。
それでも、私が平和を願う気持ちを疑われるのは、やはり辛いものがある。

「大丈夫?」
「ッ、」

いきなり声をかけられて、距離を取った。
緑色の服を着て、髪をお団子にしている青年。
どくり、心臓が大きくなる。
だが、心配そうな顔をして、私をじっと見つめるその目に、少しだけ安心した。
堰を切ったように涙が溢れ始めた私に、青年は驚いた顔をする。

「ごめ、なさい…だい、じょ、ぶです、から」

きっと、こんなに優しくしてくれた青年だって、すぐに離れていくのだ。
私の名前を呼んでくれる人間なんて、もう誰一人としていない。
いなくたっていい、否、いなくなった方がいいと思っている人間の名前なんて誰も覚えないのだ。
ぐ、と奥歯を噛み締めて、首を左右に振った。

「そんなはずはないよ、現に貴女は泣いているじゃないか」

心配そうな顔に、苦笑する。
不幸だ、と落ち込むことは簡単だけれど、そんなこと出来る訳がない。
そうやって落ち込む時間があるのなら、民のために、何が出来るか考えるべきだ。
ぐい、と涙を拭って、少しだけ笑みを浮かべる。

「…大丈夫です、ありがとうございました」

踵を返して、城へ戻る。
詳しく知られてしまえば、きっと嫌われてしまう。
あんなに優しい人に嫌われてしまえば、いつ、堕ちてしまうかわからない。
それだけは、絶対にしてはいけないことだから。

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