悪逆 | ナノ



ほんとは誰より不安なくせに
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私と彼女が近寄った瞬間、一筋の風が吹いた。
ふと気がついたときには私は、悪逆を背負わされる前の、元々の世界に立っていた。
私は帰ってきたのか、それとも、死んでしまったのだろうか?
辺りを見回して、首を傾げる。

ほんとは誰より不安なくせに

自身の置かれている状況が理解出来ない。
此処が何処なのか、そして、私は、

「氷雨?どうしたの?」
「え…、あ、なんでもない、ちょっとぼーっとしちゃって」

声をかけてくれた彼女は、私の友人だ。
そこから一気に記憶が戻ってきた。
これは、あの世界へ向かう数時間前だ。
そう、最近ふさぎ込んでいた私を元気づけようと彼女が映画に誘ってくれたんだ。
確か、この後は…

「ねえ、大丈夫?顔色悪いよ?」
「ごめん、大丈夫!さっきホラーのポスターと目が合っちゃって」

へへ、と誤摩化すように笑うと、彼女は確かにそれは怖いね、と同意してくれる。
でしょ?と答えながら、心の何処かで、どうしようかと悩む。
あの世界で、得たものは確かにある、でも、それは、この世界を捨ててまで、得るものだろうか。
ふと、その瞬間だった。

「ッ氷雨!」

いつもは柔らかな色をしていた、その声は、酷く驚いたようなそれになっていて。
聞き覚えのある昏い色も混じっていた。
何度か瞬いて、首を傾げたまま顔を向ける。
友人も気がついたようにそちらを向き、首を傾げた。
誰?と私に問いかけてくるのだが、私には言葉を返すことが出来ない。
無言でいれば、ぎゅうと抱きしめられて、友人のは?という声が聞こえる。

「氷雨、よかった…探したんだ。その花の綻ぶような笑顔は間違いないね」

くすくすと笑いながら私に口付けを落としたのは、間違いなく、関索だった。
だが、同時に気がついた。
嬉しいと思った、しかし、それ以上に記憶が戻った私には、恐怖の対象である。
がくん、と膝から力が抜けて、恐怖で身体が硬直した。

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