悪逆 | ナノ



触れているのに、ずっと遠くにいるようで
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彼女はすぐに武器を捨てた。
ゆっくりと、柔らかな動きで膝をつく。
それから、酷く凪いだ瞳で、仮初めの君主を見つめた。

触れているのに、ずっと遠くにいるようで

「殺したいのだろう?さあ、殺せ」

両手を広げ、誘惑するような甘い声を上げる。
表情は酷く作り物めいていて、武将たちは君主としての彼女に気圧された。
やはり、私に言ったことは、私を逃がすための嘘だったのだろう。
唇を咬んで、一歩前に出る。

「…氷雨、」

私の声に彼女は穏やかに微笑む。
ああ、もうダメなのだと気がついた。
緩慢な動作で簪を引き抜く。
私の意志に気がついたのか、彼女もさり気なく飾ってあった宝石作りの造花をそっと手に持った。
彼女の横に立って、簪を彼女の髪に飾る。
造花を、静かに差し出して、氷雨は穏やかに微笑んだ。

「関索、ありがとう」
「…ダメだよ」

静かに告げて、私に会いにきた門番に渡されたその短剣を抜く。

「一人で逝かせる訳が無いじゃないか、あなたは私の妻なのだから」

何処からか、息をのむ声が聞こえた。
それを気にすること無く、彼女を見つめるが、首を左右に振られる。
柔らかな唇にそっと自身の唇を合わせて、にっこりと笑ってみせた。

「あなたのいない世界は…私には淋しすぎる」
「関索、」
「だから、共に逝かせてくれないかな?」

言いながら、短剣を自身に向け、身に埋める。
その短剣を抜いて、今度は、彼女の心臓を目掛けて突き刺した。
一瞬苦しそうな顔をしてから、無理矢理に微笑んだ氷雨を抱きしめる。
頭を抑えるように、隠すように…決して首級として奪われないように。

「関索、また、ね」
「ああ、おやすみ」

ゆっくりと伏せられた瞳を見つめてから、もう一度口付けた。
彼女の身体を傷つけないように、そっと地面に横たえ、きれいな顔をじっと見つめる。

「これで、永遠に私のものだね、氷雨」

微笑みかけて、私も目を閉じた。

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