無防備なのに近寄りがたい
転びながらも彼の拘束から必死に逃げる。
私がふさぎ込んだ原因は、この男だったのだ。
あちらの世界で初めて会った時の、あの感覚は、危機感だ。
ひ、と喉が鳴る。
傷ついたような顔をする彼は、私の側に膝をついた。
無防備なのに近寄りがたい「氷雨、どうしてそんなに怯えるんだい?いつも言ってるじゃないか、君と私は前世から繋がっているのだと」
うっとりと恍惚の表情をした彼がゆっくり手を伸ばしてくる。
その手を払って、友人のいない方へ走った。
前の私は、彼女に助けを求めてしまっていたはずだ。
こうすれば、何か変わるのだと、妄信しながら走る。
すれ違った美少女に見覚えがあって、思わず足を止めた。
彼女は、確か、あの。
「お兄様!」
私の後ろを追いかける関索に向かって両手を広げ、駆け寄っていく。
ああ、この妹にして、あの兄ありというか…。
思わずひくりと頬を引きつらせてから、私は足を再び動かし始めた。
逃げていると、我が友人が不安そうに私を探しているようだった。
「銀華、ごめんね、折角誘ってくれたのに」
「いいの、気にしないで。それより、今日はうちで一日中ゲームしない?」
悪戯っぽく笑う彼女にありがとう、と笑って、彼女の手をとる。
「あと、兄さんも迎えにきてくれるって、その方が安心でしょう?」
そうだ、彼女の兄で、私の恋人は、子龍だ。
あちらの世界で、最初の部下であり、最初に裏切らせてしまった彼。
一瞬動きが止まるが、既に連絡は終わっているのだろう。
すぐに現れた美丈夫な彼に一瞬息が詰まる。
「氷雨?大丈夫か?すぐに来られなくて悪かったな」
私に触れる手は酷く優しい。
その柔らかさにホッとして、涙が溢れるのを感じる。
後ろから、彼は君を裏切った人間だ、と関索が叫んでいるのが聞こえた。
私を庇うように動いた子龍が柔らかく笑って、大丈夫だ、と告げる。
「氷雨を私の物に出来た今、裏切りで傷つける必要など何処にもないのだから」