悪逆 | ナノ



強がりながらも声が震えた
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彼女は何度も武器を振るう。
だが、それ以上に彼女を傷つける刃物が煌めいた。
私は声を張り上げる。
乗り馴れない馬のまま彼女の許へ向かう。
驚いたような顔を見て、無事でよかったと一安心した。

強がりながらも声が震えた

「何故ッ!」

彼女の叫び声に、一人の元女中が答える。

「貴女を、守りたいからですッ」

貴女が、私たちを守ってくれようとしたように。
笑みさえ浮かべる元女中に、彼女は絶望を写し取ったような表情をした。
その顔をされるのは、覚悟していた。
彼女が命をかけて守りたかった私たちが、命を危険に晒しているのだから。
私たちの頭と言ってもいい、知略の名声を持つ元太守が声を上げた。

「貴女が言ったのではありませんか、大切な者は絶対に手放すなと!」

彼女の表情が歪む。
泣きそうな、それでいて、微笑んでいるような顔で。
瞳は何処までも真っ直ぐに、私を映した。
彼女の瞳に映るのはこれで二度目だ。
一度目は、戦で負傷し、兵として使い物にならなくなった時。
職を失うかと思った私に、彼女は手当金を渡すのではなく、門番の職を与えた。
それに、どれだけの感謝を覚えたことか。
その瞳に、もう一度映れたことで、嬉しさに口元が緩む。
敵の動きも、私たちの登場によって、止まっている。

「…なら、私もそろそろいいかな?」
「だったら、俺だってこのままは願い下げなんだがな」

関索様と馬超様が不敵に笑って、彼女の隣に並ぶ。

「馬鹿がッ」

言いながらも、何処か嬉しそうに笑う。
焔っ、叫んだ彼女の声に答えるように赤兎馬が道を作る。
本当に、頭のいい馬だと思う。
そのまま関索様は彼女を抱きしめて、赤兎馬に跨がった。
馬超様も自身の絶影を呼び、ひらりと乗る。
その表情は生き生きとしていて、非常に楽しそうだ。

「俺が認めた君主は、父上とこいつだけなんでな!」
「妻を守るのは夫の仕事、ですよね?父上?」

関索様の言葉に彼らだけではなく、我々も一瞬黙った。
が、我々の黙りは驚愕ではない。

「ほ、ホントにご結婚されたんですかッ?!おめでとうございます!!」

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