悪逆 | ナノ



誰より自分が無理しているから
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現れた彼らは、私の発言に嬉しそうに笑った。
先頭にいる門番は我がことのように喜んでいるのが見える。
呆気にとられている敵の隙をついて、跨がった胴を蹴った。

誰より自分が無理しているから

その場から私たちだけで逃げ出し、彼らは彼らで散ける。
本当は一緒にいられたのなら良かったのだが、そうもいかない。
今は、散らばるべきなのだ。
勿論そのままでも、私は構わない。
氷雨が生きて、私の腕の中にいるこの現実が消えなければ、それでいいのだ。
ふと隣に並んだ馬超殿が、氷雨に何かを手渡す。
竹簡らしいそれに、中を見ること無く彼女は目を見開いて、これは、と告げた。

「渡された婚姻の断り状だ」

にか、と大きく笑って馬超殿は、いつでも待っていると続ける。
その言葉にまさか、とその顔を見た。
氷雨が慌てて開いたその中身は、既に別の内容が書かれていて。

「…驚かすな。だが、馬騰殿も無事か」

そうか。
どことなく嬉しそうな彼女の声に、私も嬉しくなる。
その表情は変わらないけれど、瞳には驚く程感情があふれていた。

「さあ、そろそろ出発しようか」

声をかけると、目の前の氷雨は悪戯に笑い、頷く。
赤兎馬の腹を蹴ると大きく嘶いて、地を蹴り上げる。
決して喋らないけれど、どこか嬉しそうに駆け出したその背から後ろを振り向いた。
何もない道が続いている。
静まり返っているその道から、今度は正面に視線を戻した。

「関索、この道は何処に続いているかな?」

楽しそうな声が腕の中から響く。

「さあ、私にはわからないよ」
「ふふ、どこでもいいけどね」

君と一緒なら、静かに聞こえたその言葉に思わず目を見開いて。
私はそっと彼女に口付けた。

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