悪逆 | ナノ



傷だらけでも笑ってみせる
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城を最後に眺め、目を伏せる。
帰ることは無いだろう、と全体を見上げた。
門に立つ、あの門番が静かに、一礼してみせる。
彼が、私の最後の部下だ。

傷だらけでも笑ってみせる

驚く程の軍勢で、かの少女は現れた。
名前も、年齢も、名声タイプと何処から来たのか以外は一切知らぬ少女。
そんな彼女と命のやり取りをしなくてはならないことが、悲しくてならない。
仮令、偽善と言われようと、そう思ったのは事実なのだ。
焔から降りて、静かに声をかける。

「焔、好きにするといい」

お前程の足ならば、他にも乗り手はいるだろうからな。
そう告げれば、焔は怒ったように嘶く。
私の顔に鼻先を擦り付けて、甘える仕草を見せた。

「うん…最期に、思いっきり走ろうか」

いつもの、本来の口調に戻して、焔の鞍の留め具を外す。
前足を上げて立ち上がったその背から、鞍がずり落ち、どすん、と鈍い音を立てた。
その鬣を掴み、真っ赤な胴体に跨がる。
全員守れたと妄想しているうちに、笑って死ねる最期を求めて、胴を蹴った。

「…邪魔立てするのなら、斬るッ!」

叫び声を上げながら、焔の好きに走らせる。
一直線に君主を目指し走っていくのを感じながら、破城槍を構えた。

「攻撃しないなら、命は奪わん」

兵には手出しする気はない。
地面を強く蹴り、高く跳び上った焔から飛び降りる。
破城槍を下に向け、がちり、起動させた。
一気に加速しながら、地面を割る。
敵将が一人、使い物にならなくなったのが視界に入った。
重さに任せるようにしながら、武器を振るう。
少女が怯えたように一歩下がった。

「君主たるもの、怯えを見せるなッ」
「ッ、」
「貴様はッ、ただの女である前に、君主だろうがッ!」

守られるべき存在じゃない、守るべき存在なのだ。
無論、戦では本来表に出ずに守られるべきだとは思うが、小さく心の中で続ける。
真っ直ぐに少女を見つめながら、口角をつり上げた。
名だたる武将たちが、彼女を庇うように私と彼女の間に立ちはだかる。
その中に関索と馬超がいるのを見て、心からの笑顔を見せた。

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