悪逆 | ナノ



意味深な笑み
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彼女は、私にしか託せないことだと、そう言った。
だが、明らかに違うのだ。
それでも、私を守ろうと、命を守ろうと必死な氷雨様に私は何も言えなかった。
だから、ただ一つ、交換条件を出した。

意味深な笑み

国に帰ると、父に歓迎された。
父だけではない、全員に、と言ってもいいだろう。
馬騰殿と馬超殿には不可解な視線を向けられたが、情報を得る機会だと歓迎されていたのには違いない。
女君主にも歓迎された。
べたべたとくっつかれそうになったが、いつものように言葉をかけながら避けることは容易だった。

「…関索、花はどうしたんだ?」
「おや、馬超殿、こんにちは」

にっこり、笑ってみせれば、はあ、とため息を吐かれる。
話す気はないのか、と言われ、何をですか?と恍けてみせた。
今、私の頭には宝石で作られた精巧な花ではなく、ただの簪が飾られている。

「…決定したそうだ」

馬超殿が静かに続けた。
何を、とは、問うまでもなかった。
私も彼も何を言うでもなく、ただ沈黙を貫く。

「いつ、ですか?」
「明日出発だ、俺もお前も、君主様直々の名指しで戦いに加わることになった」

本当に忠誠心があるのか、確かめるそうだ。
ある訳が無い、と言いたげな表情で吐き捨てるように告げた彼は苛立を隠せないらしい。
私は軽く腕を上げて、簪に触れる。
忠誠どころか、私の心も命も、氷雨様だけのものだ。
他の誰にも決して許せるものではない。

そして、戦場で、彼女にまみえることになった。
いつも通り無表情で、赤兎馬に跨がっている。
華奢な身体に似合わない破城槍を持ち、真っ直ぐにこちらを見ていた。
彼女の後ろには誰もおらず、彼女の前にも、誰もいない。
ただ、一人きりで、私を含む軍勢の前に仁王立ちしている。

「ようやっと来たのか、」

遅くて待ちくたびれたぞ、そう告げた。
それから、私と馬超殿を見て、安心したように目を細める。
だが、すぐに表情を変えて、にやりと笑った。

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