勝ち目がなくとも前だけを見て
状況は、悪い。
あの、噂の仁愛の女君主の元に続々と武将が集結しているらしい。
南(西もある程度)は私が確かに平定している。
だが、東と北は殆どがあの女君主の土地になってしまった。
残るのは、私たちと、馬騰のみ。
勝ち目がなくとも前だけを見て馬騰には降伏することを勧め、私は部下や民たちを守るための方法を考え始めた。
一番は降伏なのだろう。
だが、ご丁寧にも私に対しては宣戦布告してくれているのだ。
最終的に私の首を斬らねば、彼女にとっては泰平ではないのだろう。
どんなRPGだって、最終的には悪を倒さなくては終わらない…そういうことなのだろう。
私の部下が裏切らないのは、ただ単に彼女が名声タイプが悪逆の人間は容赦なく処刑しているからだ。
それ以外の人間も、裏切って彼方に行ったとして、彼方では地位を築けないと考えているからだろうか。
とはいえ、此方にいても、死するばかりだろう。
朝議の場に立ち、部下たちを見つめる。
「生きろ、そのためなら私も、この国も捨てて構わない」
ただ、家族は捨てるな、大切な者は絶対に手放すな。
そう告げ、国富として溜め込んでいた一部を全員に配分する。
驚いた顔をする部下たちから視線を逸らし、朝議の間から踵を返す。
次は、民たちだ。
「関索、いるか、」
「はい!」
「…これを、民たちに頼む」
本当に信頼できる人間になりつつある彼に、民に分け与える分の品書きを見せる。
驚いた顔をしながらも、しかと頷いた彼を横目に、次のことを考える。
逃げるための道を造らなくては。
私と違って罪の無い命を、むざむざと散らせる訳にはいかない。
軽く拳を握る。
「お耳に入れたいことが、」
名声が知略の太守がひそり、教えてくれた。
関索に、大量の書簡が来ているらしい。
それは全て、あの女君主の国からで、相手は様々で関羽、趙雲、張飛、君主等。
ふと、思いついた。
私からは決して離れないだろう彼を生き残らせる方法だ。
「…関索、後で話がある、私室へ」
彼がしっかり頷くのを見てから、最後にからになる前の街を見てこようと厩に向かった。
焔に跨がり、いつも勤勉に働いてくれる門番に感謝を告げる。
それから、餞別にと護身用の短剣を一つ、投渡した。
数日もすれば、城の中は静かになる。
部下の中には残ると言ってくれた人間もいたのだが、無理矢理に外へ追い出した。
死ぬのは、私だけでいい。