鬼神 | ナノ



たいめん 1/1


どうやら、私の力を見る試験だったらしい。
よかったよかった、と思っていたのだが、まさか司馬懿様の息子殿の護衛になるとは。
思わず無言になってしまったが、傷が痛い。

「その…御前を失礼させていただいてもよろしいですか?」
「それは…まさか、俺の、」

怪我を見ながら顔にやばい、と書かれている父を見て、ああ、母上、と見当はついた。
ついたが、いきなり試されたことを怒っていることは事実なので、頷く。
とりあえず拘束した面々を自由にしてから、傷口を押さえた。
中々血が止まらないのである。
困ったものだと思いながらも、青い布を汚す気にはなれず、どうしたものかと首を傾げた。
まあ、その後すぐ典医殿に見せて、包帯を巻いてもらい、案の定父は母に怒られていた。
父が怒られている途中に父が曹丕様の護衛武将だと知って、ビビった。
関係ないが、私の弟は曹丕様の息子の護衛武将になるらしい。

その翌日、私の目の前には美しい少年がいた。
正直、少女って言っても問題は無いんじゃないかと思うほどの美しさだ。
かちり、とした拱手をする。

「お前は?」
「本日より司馬師様の護衛を務めさせていただきます」

ふ、と笑んだ彼は非常に美人である。
釣り気味の眼は真っ直ぐに物事を見据え、凛とした空気を保つ。
硬質な印象を与える髪は柔らかに光を反射させて、少年らしさがでている…のだろう。
これ、もう少し年行ったら、ヤバいな、私。
絶対女官から敵視されるよね、天命ってやつか。

「あら、あなたが?」
「は、我が命を賭しても、司馬師様をお守りいたします」
「そんなことしなくていいのよ」

うふふ、と笑うたおやかに見える女性に背筋が伸びる。
怖い。
女官とかの前に、此処で命尽きる気がする。
司馬師様を守らなくていい=解雇?

「…なら弟を護衛に」
「ああ、違うのよ、この子のために命なんて掛けなくていいの」

あなたは女性なのだから、嫁ぐこともあるでしょう?
と、言外に言われている事実に気がついた。
が眉を下げて、首を左右に振った。

「お恥ずかしい話、私は護衛として育てられた人間…命を賭して誰かを守ることしか出来ません」
「お料理や裁縫は習っていないの?」
「はい。炊事をする時間があれば兵法を学べと言われ、唯一許されたのは肉まんだけで」
「肉まん…!」

司馬師様の目が輝いた。
…え、肉まん好きなの?可愛いなぁ、おい。
でもさ、肉まん作りが許されたのも、回復するからってだけで、本当に嫁に行かせる気が無いな父上。
張春華様はまあ、と口元に手を当てて、なら、とにっこり笑った。
とても楽しそうなその顔に驚いて司馬師様を見るが、キラキラした視線を向けられているだけだった。

「肉まんを作るのだ!」
「御意に」

私の主人からの初めての命令は、肉まん作り…いえ、死ねとかよりいいんですけどね。
とにもかくにも、張春華様に見守られながら(見張られながら?)肉まんを献上しました。
女性でさえ羨むだろうあの顔が、本当に嬉しそうに花開いたのを見て、思わず見惚れてしまう。
この人を守る、その意志は今確実に固まった。

「これからもこの子をよろしくね」
「はっ」
「あと、肉まんは一日一個を守らせてくれるかしら?」
「畏まりました」

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -