きずあと 1/1
妹の稽古を付けて、数ヶ月。
ヒョウを得意武器として、体術を教えた。
他にもサブとしていくつかの武器の扱い方を覚えさせる。
「姉様、姉様の傷はいつついたものなのですか?」
ふと、妹が問いかけた。
訓練の休憩中で、司馬一族と賈充殿、元姫も様子を見に来ているときで。
数人は傷?と首を傾げた。
いつも襟のある服を着ている所為で、見たことのない人間も多いだろう。
「この傷のことか?」
襟元を開いて問いかける。
妹はこくりと頷いて、私をじっと見つめた。
私の傷を初めて見た張春華様と司馬昭様、賈充殿に元姫は驚いたような顔をしている。
「…それは、あの時の傷か」
司馬懿様の言葉に頷くと、全員の視線が司馬懿様に集中する。
知っているのか、という視線に負けたのか、一つ息を吐いてから話し始めた。
「あれは、まだ、曹操様がご存命の頃の話だ。私と曹操様、曹丕様、夏候将軍で氷雨の力を見た」
父親が目の前で謀反を起こした振りをして、どのような反応をするのかを確かめる。
それを提案したのは私であったし、承諾したのも実行したのも曹丕様の護衛武将であった氷雨の父だ。
聡明そうな表情で、協力した兵士たちの鳩尾に拳を入れて、布一枚で実の父親を気絶させた。
だが、その時、兵士たちも父親も真剣を持っていたが故に傷ができたのだ。
しかし、泣き言を言うでもなく、ただ、痛いと一言言うだけで表情も変わらない。
見事な手際で兵士たちの服を使い全員を拘束して、父親が意識を取り戻すまで拱手を続けていた。
その様子に夏侯将軍が甥っ子に付けたそうな顔をしていたので、先に息子に付けたいと申し出た、それだけだ。
「…つまり、手当が遅れた所為で傷が残ったと?」
「まあ、そうなるな」
「しかし、そのお陰で私は子元様に仕えることが出来るのですから」
司馬懿様と不満そうな顔をした子元様ににこりと笑いかける。
子元様は何とも言いがたい表情で考え込んでしまう。
妹は、なるほど、と満足したようだ。
「では、父様が姉様に傷を残した唯一の人なのですね?」
「とはいえ、あれは私の詰めが甘かった所為だからな、ある意味では自分で残した傷だな」
苦笑しながら告げて、自分の肩についている青い布を取る。
くるくるとねじるよう巻いて、片側に寄った一ヶ所を縛ってから、構えた。
「さて、休憩は終わりだ。体術の一種として、布を使った戦い方も覚えておいた方がいい」
ヒョウで向かって来い。
告げて、真っ直ぐに妹を見据える。
右腕に残った部分の布を巻き付けて、飛んでくるヒョウをたたき落とす。
そのまま距離を詰め、反対の端を掴んで輪っかにする。
結び目が喉元に当たるように引っ掛けてから、引き上げるように真後ろに立つ。
「うぐッ、がっ」
腕に巻いてあった布を解きながら、首を絞めた布を緩めた。
妹の両手を掴んでその布で結ぶ。
転ばせて、俯せにさせ、足も一緒に纏めた。
「ここまですれば、大抵は反抗もできない」