鬼神 | ナノ



たいけつ 1/1


氷雨は無心に動いていた。
武器を手に持ち、仮想した敵を打ち倒しながら、背後の司馬師を守るように。
とはいえ、実際は一人きりで動いており、その様子を見ている人はいなかった。
地面に差した武器を持ち替えながら、舞うように、連続していく。
どれ程重い武器であっても、軽くても、変わらず動き続ける。

「…流石だな」
「賈充殿、」

大剣を地面に差して、額の汗を拭った。
賈充が差し出す手ぬぐいを受け取りながら、その首筋を晒す。
彼女の動きをじっと見つめてから、賈充はふ、と笑った。

「無防備すぎやしないか?」
「賈充殿は司馬昭様を第一としているのだろう?わざわざその本人から距離を置かれるようなことはしまい」
「…命を奪うとは限らないだろう?」

言いながら賈充は氷雨に近づく。
ぐい、と引き寄せて、抱きしめた。

「賈充、」
「…子元殿」

静かな声に、はあ、とため息を吐く。
現状を理解出来ていないらしい氷雨は、何度も瞬きながら賈充を見つめる。
それから、気を取り直したように司馬師に視線を向けた。

「子元様、何か御用でしょうか?」
「用がなくては会いにきてはいけないのか?」
「いえ…ただ、普段は司馬懿様や張春華様とお話しなさっている時間かと」
「ああ、間違ってはいないな」

笑う司馬師は腕を伸ばし、賈充の腕から氷雨を引き離す。
ぎゅう、と抱きしめて、その頬に口付けた。
子元様!
非難するような声で氷雨は告げるが、司馬師も賈充も無視。

「弁解はあるか?」
「ありません。俺も彼女が欲しい、それだけです」
「私から奪うと?」
「いえ、彼女の一番は子元殿、俺の一番は子上だ。似た者同士だとは思いませんか?」

くつり、笑う賈充に眉を寄せる司馬師。
何処までも冷たい表情で無言を貫く二人に、挟まれている氷雨は堪ったものではない。

「私は、氷雨を手放すつもりはない。それに、だ」

言いながら、司馬師は腕に抱いた氷雨の頬と唇に指を滑らせた。
その耳に軽く噛み付いて、真っ赤になっている彼女の顔を賈充に向ける。
氷雨は視線を泳がせることで、なんとか羞恥を逃そうとするが、出来る訳もない。

「氷雨の全ては主人である私のもの、諦めるんだな」

ぐい、と小さな顎を掴まえて賈充の目の前で深く口付ける。
逆らうことも応えることも出来ない氷雨は目を見開いたまま、ただ受け入れる。
賈充が眉を寄せ、無言になった。
それから上着を翻してその場を離れる。
ふらりと氷雨が倒れたのはその直後だった。

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