鬼神 | ナノ



かんけい 1/1


「氷雨殿、」

真っ直ぐに見上げてくる美しい少女。
年齢は私の三つ下。
つまり十五なのだが、そうとは思えない聡明さを持っている。
思春期の女の子特有の潔癖さも勿論持っているものの、だからと言って全てを拒否する訳じゃない。
苛々したとしても、それを外に出すことは少なく、いつも無表情に司馬昭様を見つめている。

「王元姫殿、私のことは氷雨で構いません…その、殿とつけられるのは慣れておらず」
「ですが」
「そう呼んでやれ、氷雨と名付けてから八年、殿をつけるのは外の武将だけだ」
「名付けて…?」

不思議そうな顔に一度頷く。

「私は護衛一族出身なのですが、その一族の仕来りなのです。自分の仕える主人に名を付けてもらう、という」
「それ以前の名前は、どうするんですか?」
「ありません、名前は一つしか持てぬのです。両親は娘と呼び、弟妹は姉と呼びますし」

へらりと、笑って伝える。
驚いたような顔をした彼女は、それから、ふむ、としっかり頷いた。
なるほど、と納得したようにその鈴のような声を響かせてから、私を見上げる。

「氷雨。…その、私のことは、元姫と呼んでもらえないかしら?」
「…いいの、でしょうか?」
「私がお願いしているんだもの、構わないわ」
「では、元姫。これから、よろしくお願いしますね」

ええ、と頷いてくれた彼女は酷く可愛らしい。
家族が殺伐としているからか、なんだか、話に聞く妹のようだと感じる。
本来の妹は…ほら、敵対したら殺し合いしないといけないから。
情が湧かないような接し方しか出来ないこともあるし、基本、家族とはどう接するものなのかわからない。

「おーい、氷雨ー!」
「司馬昭様、何処へ行かれていたんですか?心配しましたよ」
「え、悪ぃ。次からは気をつける」
「はい、是非そうしてください」

笑いかければバツが悪そうに、頭を掻いて視線を逸らす。
元姫も、多分そのことで私のところに来たのだろう。
子上殿が見当たらないと、お目付役になってからよく言っているのを聞く。
司馬昭様はほら、と私に白い花を差し出してくる。
ぱちり、と瞬いてそれを見た。

「いつもありがとな!」
「こちらこそ、感謝しています」

くすり、と笑ってその小さな花を受け取る。
多分、だが、外にこれを取りに行っていたのだろう。
私を驚かせたい、という純粋な気持ちか、サボるついでになのかはわからないが。

「では、勉強に入りましょうか」
「おう、」

にこりと笑って頷く姿に、元姫がはあ、とため息を一つ。
まだまだ慣れないのだろう。
司馬昭様は結構癖のある方だし、子元様がいてこそ、自分がそうあれると自覚もしている。
だが、それは私が小さな頃から見ていて知っていることなわけだ。

「大丈夫です。これから知っていけばいいんですから、ね?」
「…そうね。ありがとう、氷雨」
「あ、なんで仲良くなってんだ?兄上は知ってます?」
「さあな」

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