鬼神 | ナノ



こうにん 1/1


司馬師様のまさかのお言葉を受けて数日。
司馬懿様に呼び出された。
隣には張春華様もいらっしゃる。
なんだろうと、ビクビクしながら伺えば、彼らは笑っていた。

「師が、ようやく求愛したそうだな」

驚いて、その顔を見た。
ようやくって何事だ、と思いながらも、ただ、見つめる。
くつり、と笑う彼は楽しそうに続けた。

「何、気負うことは無い」
「ただね、変な遠慮はして欲しくなくて」

にこり、張春華様が遮るように言う。
ただ、静かに頷いた。
が、直後私は張春華様の顔を二度見することになる。

「そういえば、子元の口付けはどうだったかしら?」

等と聞かれれば、それも当たり前だと思うのだが。
かああぁっと顔が赤くなっているだろうことが、既にわかっている。
うふふ、と楽しそうな笑みの張春華様。

「そ、れは…、その、」
「腰が抜ける位かしら?」
「ッ、」

これはむしろイジメではないかと思うが、そんな意図はないのだろう。
それは、これまでの七年間で理解している。
が、羞恥心はかき消せるものではない。
加えるのであれば、それが間違っていないし、見られていたときに理解されていたという事実で。
羞恥からじわりと目が潤む。
頬も耳も、誰が見ようとわかるくらいに真っ赤になっているに違いない。

「ふふ、子元には引く必要は無いと伝えておきましょうか」

にっこり、とどめのような一言に、私は閉口するしかなかった。

そして、その張春華様の言葉を実行するかのように、司馬師様の行動には息つく暇もない。
勿論、戦場や公の場で何か行動を起こすことはない。
護衛武将である私も公私はきっちり分けているつもりだし、彼もそうなのだろう。
問題は、公私の私の方だ。
護衛武将とは言え、私は、一族のしきたりもあり、司馬一族の邸に住み込んでいる形だ。
それ故、本来は護衛女官やそれに準ずる者が果たす私での護衛も平行して行なっている。
それを本業としている人間も、司馬邸には存在している。
一人や二人ではなく、私が常に司馬師様にくっついている必要はないくらいだ。
とは言え、司馬家に仕える護衛の中で私が一番腕が立つことは間違いない。
それもあり、普段は司馬師様の私での護衛もある程度引き受けている。
よって、司馬昭様の兵法をみたり、訓練をしたりと時間を取ることが出来るのだ。

「…よもや、家での護衛をやめようとは考えていないだろうな?」

司馬師様の声にびくりと肩を震わせた。
そう、つまり、そういうことなのだ。
公私の私、司馬邸での、彼の行動は…なんというか、手に余る。
肉まんを一日三つ食されるのはいつものことだが、お礼を言いながら手を握ってきたり。
執務をされている間に、お茶を出せば、甘く微笑んで私の頬に触れたり。
毎夜寝る前に額に口付けてきたり。
毎日飽きないのかと思うくらいに、習慣と化してきている。
習慣だと思い込もうとしても、毎回顔が赤くなってしまうのだが。

「そのようなこと、は」
「私はお前がいるから心安らぐ時間が得られるのだ、離れようなどとは思うな」
「ッ」

いつもこういうことを言うときだけ耳元で囁いてくるのも、困ったものだ。

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