鬼神 | ナノ



いもうと 1/1


戦場に立つ。
それは、司馬師様だけではなく、司馬昭様にも、賈充殿にも課せられた責務。
逃げることは出来ないし、逃げることもしないだろう。
同時に、彼らを守るために戦場に立つ私たち一族も同様だ。
逃げることは許されない。
だから、なのだろうか。

「…そうですか、父と、母が」

私たち護衛一家は、成長し、主人が出来れば、その人に一生を捧げる。
主人となる人の家に住み、家族との縁は、殆ど切れると言っていい。
主人同士が敵になったのなら、戦場で互いを殺すことさえあるだろう。
だが、父と母はそうなることなく、共に戦場で散れた。
まだ救いがあるのだろう。
そうは思ったものの、ふと、考えた。

「妹は、主人を見つけていますか?」

そう問いかければ、驚いたような視線が向けられた。
司馬懿様はじっと私を見つめ、どういうことか、と問いかける。

「私たちは、主人を決めた瞬間から、仮令親兄弟であろうと主人の敵であれば、斬れと育てられております」
「それで?」
「よって、私や弟のように、主人を定めているのであれば、面倒も見ていただけるでしょう」
「今のお前のようにか?」
「はい。しかし、妹は八つ。主人は見つけていないと考えられます」

なるほどな、司馬懿様が納得したように頷いた。
それから、張春華様が一人の少女を連れて現れる。
…多分、私の妹だろう。
生憎と、私は十であの家を出て、司馬家に世話になっている身。
つまり、七、八年、彼女と顔を合わせていない。
私のことなど、殆ど覚えていないだろう。
ついでにいうのであれば、私も、生まれたばかりの妹しか知らない。
なんて思いながらも、じっと彼女を見つめる。

「…姉様ッ!」
「わかるのか」

思わず驚いたのだが、抱きついてきた彼女の目は、真っ直ぐに私の瞳を見つめていた。
ああ、父に似ている最もは、眼差しだと、母に言われたことがあったな。
唐突にそんなことを思い出しながら、そっとその頭を撫でてやる。
母によく似た面差しだ。

「妹、お前の名はなんだ?」
「まだありません」
「…やはりか。どうしたい?名が欲しいか?それとも、自分でつけるか?」

抱き上げて問いかける。
妹は、無言になって、眉を寄せた。

「私も、弟…お前の兄も、死んだ父も母も責めはせぬ、好きに選ぶといい」
「わたし…は、姉様のように、名前が欲しいです」

涙の溜まった目ではあるが、真っ直ぐに私を見つめる。
じっとその顔を見て、わかった、と頷いた。
彼女を下ろし、不思議そうな顔をしている司馬懿様と張春華様に視線を向ける。

「妹は主人を見つけ、一生仕えることを選びました。暫く私の元で鍛えることをお許しください」
「名前、とは?」
「私たちは名を持ちません。主人に、つけていただくのです。私の氷雨という名も司馬師様から賜ったもの」
「そうだったの?」

驚いたような張春華様に一度頷いて、口角をつり上げた。
私の妹は私の隣に立ちながら、司馬懿様と張春華様をじっと見つめる。
二人は驚いたようにしながら顔を見合わせ、張春華様が先に微笑みながら私を見た。

「主人候補は、此方で絞らせてもらうけれど、構わないかしら?」
「はい。お心遣い、感謝いたします」
「ありがとうございます!」

隣で頭を下げる妹の頭をガシガシと撫でて、そのまま片手で引っ張り上げるように抱き上げる。
嬉しそうに笑う妹に、これからの予定を考えなくては、と頭の中で組み立てた。

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