悪魔の寵姫 | ナノ



74
しおりを挟む


目をそらしてきたツケは回ってくる

水町氏の言葉に反論したのは、何故セナ氏だった。

「そんなことないよ、」
「小早川…?」
「なんて言えばいいのか、わからないけど…」

氷雨さんは、距離をすぐに置きたがって、離れたがるけど。
それでも、それは、本当じゃないから。
彼は、泥門の一員として彼女と一緒にいて、それを知ったのだろう。
言葉に力があって、まるで、いつかの彼女のように自信に満ちていた。
それが真実なのだと、知っている目で。

「多分、今日病院に行ったのも、後からメールで病院の場所を教えてくれたのも…全部、寂しいからだと、」

そう思うんだ。
まるで彼女自身かのように告げて、似たような顔で笑った。
丸々一日の猶予。
それを与えた彼女は、何を求めていたのか。
何を、許したのか。
きっとこのタイミングを逃したら、彼女を捕まえることはできないのだろう。
ただ漠然とそう思って、それでも、覚悟は決まらない。
とりあえず、と解散して、自由行動になる。
鉄馬が伺うように見てくるのに首を左右に振る。

「とりあえず、部屋に戻ろうか」

そう告げれば、フシューと返事とも言えない返事がある。
鉄馬は一体、どう思っているのだろう。
問おうかとも思ったが、なんだかずるい気がして口を噤む。
鉄馬と部屋に戻っても、どうにも考えがまとまらないだろう。
そう思い至って、立ち止まる。
真後ろで止まった鉄馬に、好きにしていいよ、と告げた。
少し外に行ってくるから。
そう告げて、まだ明るい外へと向かう。
何人かが外にいるのを見ながら、ロビーから出た。

「はー…」
「デケェため息だな」
「…ヒル魔氏。こんなとこにいていいの?」
「まあな、」

いつも通り銃を肩に担いで、ニヒルな笑みを浮かべている。
彼女を一番手元に置きたがっていた男が一体なんの心変わりか。

「テメェにゃ、わかんねーよ」
「…、」
「俺には俺の時間があるからな」

肩をすくめて、ヒル魔氏は、何をするでもなく、ただ座っていた。
そして、空がうっすらと暗くなる様相を見せ始めた頃に、勢いをつけて立ち上がった。

「そろそろだな」

ニヤリ、と笑って、ガムを膨らませる。
ひらりと手を振って歩き始めたその姿が眩しい。
ヒル魔氏にはヒル魔氏の時間が、ねえ…。
なら、俺にも時間はあるのだろうか。

「できるかねぇ…」

俺にも。
赤から藍色にきれいなグラデーションを描く空を見て、ため息をひとつ。
氷雨さんにはそれほど進んで関わってきたわけじゃないから。
なんて、ただの言い訳で。
目を伏せると、グツグツと闘争心が沸き立っていると嫌でも気がついた。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -