悪魔の寵姫 | ナノ



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知らないふりが随分と上手になったようで

「ヒル魔君、いいの?行かせちゃって」
「あ?いいに決まってんだろ」

泥門のマネージャーとヒル魔氏が言葉を交わす。
話の中心は、先ほど別れを告げた氷雨さんだろう。
彼女は、すぐに病院へと向かって行ってしまった。
日本代表の俺たちには病院すら教えてくれないで、五芒星とともに。
生まれた感情から目を逸らして、ただ隣に来た鉄馬に視線だけを投げかける。
ふ、とその場に沈黙が落ちたその時だった。

「あ、氷雨さんからメールだ」
「は?!」

突然、王城の桜庭氏が声をあげた。
どうして、彼だけに、と思った瞬間、何人かの携帯が音を立てる。
どうやら一斉送信したらしい。
多分届いていないのは、海外契約をしていない携帯の持ち主達だろう。
あいにく俺も何もしていないので、携帯にはなんの連絡もこない。
が、メールが届いた彼らの話だと、病院伝え忘れてた!と言うなんともうっかりした題名らしい。
病院の住所と名前があった。
時間があったら遊びに来てね!なんて簡単に言ってくれる。
なのに、憎めないな、と苦笑を浮かべて帽子を抑えた。

「夏休みなんかは凄そうだね」
「病院に日本人が詰めかけることになるだろうね」

零した言葉に、王城の高見氏が肩をすくめて答える。
平然とした顔をしているが、行けるかな、と彼自身自分のスケジュールを確認しているのが見える。
…恐ろしいね。
それでもグツグツと焼け付くような闘志が自分にあることがいっその事嘘くさい。
どうして、それほどまでに、と自問する。
そうなってしまったから仕方ないと、乱暴なまでの感情論でしか答えが出ない。
ヒル魔氏が携帯を操作しているのは彼女に返信しているからだろうか。
何人かがスケジュールを確認しているのは、高見氏と同じ理由だろう。

「もしもし?まだ病院じゃないんだね、よかった」

中でも帝黒の大和氏はまさかの通話だ。
誰もが、必死に。
いつかMr.ドンの言っていた悪魔のような女というのはある意味真実だったのだろう。
彼女は不思議そうな顔をしていたけれど。
誰も、Mr.ドンの言葉に反論しなかったことを考えれば。
全員が全員というわけでもないだろうけど、認めていたのだろう。
彼女が、まるで悪魔のように魅力的で、蠱惑的で。

「まったく、恐ろしい人だっちゅー話」

隣で肩をすくめた円子氏に目を見開く。
その童謡を悟られないように肩をすくめて見せるけれど、きっとバレているのだろう。

「峨王が、あんな風に誰かに入れ込むとは思わなかったよ」
「…それを言ったら、全員に言えるんじゃない?」
「そうかもね」

あっさりと言った円子氏はそうではないのか。

「にしても、氷雨さんって大変だよなぁー」
「水町?」

ポセイドンの二人の会話が耳に入る。

「だって、氷雨さんって、大人だろ?こんなたくさんの高校生に片思いされても面倒じゃね〜?」

あっけらかんと言い切った水町氏。
誰もが、その可能性に気がついていただろうに、彼から視線をそらすことはできなかった。

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