悪魔の寵姫 | ナノ



72
しおりを挟む


諦めることも手放すこともできない

問題児達は、一様に彼女の言葉に頷き、沈黙を保っている。
彼らが問題児だと知っている面々からすれば、信じられないことだろう。
白秋と神龍寺の元キャプテン達が感心したように彼女を見ている。
素直ではない彼らをメッと子供を叱るようにして言うことを聞かせられるのは彼女くらいのものだ。
たまに、五芒星にまで声をかけているのを見ると、なんとも豪胆だと感心してしまう。
彼女は楽しそうに遊びまわっていた。
そして、一週間経つ頃には、今まで以上に関係を深めた俺たちや彼らに嬉しそうに笑う。
けれど。

「じゃあ、また一年後くらいにお会いしましょう!」

突然、ホテルでそう笑った彼女に唖然とした。
誰も知らなかったらしく、日本代表勢で驚いていない選手はいない。
ただ、マネージャー勢は知っていたらしく、少しだけ泣きそうな顔をしていた。

「実はですね」

そう話し始めた彼女の言葉に、唖然とした。
以前怪我をして、記憶を失った原因の人間が治療費を負担しての手術が行われるらしい。
ただ、その後リハビリ等も行わなくてはならないらしく、一年は日本に帰って来られないそうだ。
こちらにくる前から、その話の打診はあったらしい。
それでも、クリスマスボウルやワールドカップがあったあったから断り続けていた、と。
そもそも事故った原因の人があまり好きではなかったから関わりたくなかった、なんて少し拗ねたように言う。
色々あったらしいが、Mr.ドンが裏で手を回したことで、妥協点が見つかったそうだ。
泥門の選手数人が、何かを思い至ったような顔をしていた。
皆さん日本でも頑張ってくださいね。
そう笑って、彼女は首を傾げた。

「死ぬような手術じゃないから、そんな顔しないでくださいって」

戸惑った顔をしているらしい面々を安心させるように微笑んだ。
大丈夫だから、ね?と子供に言い聞かせるような顔のままいる彼女の後ろには五芒星が並んでいて。

「アメリカ戦が終われば、そうとは限らない…ってそう言うことかい?」

何かを知っているらしい大和氏がそう告げる。
その言葉に彼女はパチリと瞬いて頷いて見せた。

「こっちにいる間、私の保護者?はミスターが引き受けてくれることになったから」
「ドナルドでいいと言ってるだろう?」
「お世話になる方のことをファーストネームで呼び捨てにはできませんよ、ミスター」

さらりと、Mr.ドンを交わす彼女は、平然としている。
けれど、このまま彼女をアメリカへ置いていけば、この先はわからない。
彼女は基本的には押しに弱い。
今までの峨王氏や進氏の行動からしてもわかることだろう。
押されればそのまま受け入れてしまう彼女が、一年後どうなっているのか。
彼女自身のためを思えば、日本に連れて帰るなんて答えはどうしても出せない。

「氷雨さん、」

泣きそうな声は誰のものだっただろうか。
それでも、彼女は引き止めらることなく笑う。

「って言っても、私の方がミスターより年上なんだけどね!」

おかしいよね!全然見えない!
力強くそう言い切って、腰に手を当てて仁王立ち。

「って言うか、私よりちゃんと年下に見えるのって、本当に数人だけじゃない?!」

同じ日本人なのになんでさ、と言い切った。
つい目を逸らしたのだけれど、周りの面々もそっと目を逸らしているのを見て、なんともいえない気持ちになる。
さっきまで悲しい別れだったはずなのにどうしてこうなっているのか。
100%彼女のせいなのだけれど、それでも嫌な気はしない。
ちらりと確認した氷雨さんは怒ったふりをして笑っていた。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -