悪魔の寵姫 | ナノ



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罪の果実を齧りあった

トーナメントの抽選会が始まった。
次々と無意味に大きな巨大ビンゴでボールを出していく。
ニコニコといつもと変わらない表情でその様子を見守っている氷雨がパチリ、と一度瞬いた。
どうしたのだろうか、と思っていれば慌てたように走っていく。
大きなビンゴへと手をかけていた峨王の手の上にそっと、小さな手を乗せた。

「ダメですよ、峨王さん」
「氷雨」
「回しましょう?せっかくの機会なんですから」

引き寄せの法則って知ってますか?彼女は穏やかに話しながら、彼の手を取って、一緒にレバーを持つ。
ぐるり、と回されたビンゴから転がり落ちてきた小さなアメフトボールは彼の願い通りだったようだ。
VSロシア!と声が響くのを彼女はにっこりと嬉しそうな顔で、峨王を見上げた。

「ね?言った通りだったでしょう?後で阿含さんにもお説教ですね」

クスクスと笑う彼女は、この会場の中の誰よりも目立っている。
本人はそんなこと興味もないと言いたげな顔で、峨王の手を引いて、日本チームの元へと帰ってきた。
よくやった、とその頭を撫でるのはヒル魔氏で、彼女は嬉しそうに笑う。
ああ、羨ましいな。
そう思った時にはもう、手が出ていた。

「猛くん…?どうかしましたか?」

危機感なんてかけらもない顔で、彼女は俺を見て笑う。
はあ、とため息をつきたくなる気持ちをこらえきれなくて、それでも、氷雨の顔は楽しそうで。
敵わないなぁ、と小さくつぶやいて、ぎゅうと両腕に力を込めて抱きしめた。
けど、そんな幸せを俺だけが得られるなんてわけはなくて、すぐに他のメンバーに引き剥がされる。
そのまま彼女は女性陣に囲われるようにして隔離されて、翌日のロシア戦まで会うことができなくなるなんて、誰が想像しただろうか。


ロシア戦の会場で出会った彼女はいつもよりも動きやすそうな服装だった。
けれど、チューボー君がロシア側のベンチにいることに気がついていたのか、慌てたように動き始める。
ベンチを間違えたことに気がついた彼に近づくロドチェンコがベンチごと勢いよく投げ飛ばす。

「中坊君!」
「チューボー!!」

飛んできたベンチやドリンクはまだしも、彼自身を、彼女は避けられない。
避ける気も、無かったのだろう。
自分の足を踏ん張るようにして構えた。
勢いよく、ぶつかったチューボー君に巻き込まれるようにして、彼女はセナ君のところまで飛ばされる。
追いかけてきたベンチとドリンクは進氏が止めていた。
慌てて彼女へと近づいたのだが、それよりも早く、彼女へ近づいていたのは、武蔵氏だ。

「氷雨!」
「っぐぅ…厳、くん。薬、とっ、て?」

脇腹のあたりを指先が白くなるほどに力強く押さえ込んだ氷雨は苦しそうに喘ぐ。
武蔵氏が彼女のカバンへ目を向けているのに気がついて、それを持っていく。
お礼もそこそこにカバンを開けて、すぐに目的のものを取り出した彼は丁寧な動きでそれを飲ませる。
まだ落ち着きはしないけれど、先ほどまでの焦りがなくなったのを見てホッとしていると、一人の男が現れた。
金髪で黒いスーツを着た男だったが、彼はスッと自然な動きで氷雨に手を差し出した。
一度苦しそうなまま目をつぶって深く呼吸した彼女は、その手をパン、と音を立てて払う。
それから、武蔵氏を断って一人で立ち上がる。

「厳くん、ありがとう。もう、大丈夫だから」
「…俺も行くぞ。ヒル魔!」

眉を寄せた武蔵氏はヒル魔氏に話をして、黒いスーツの男と彼女と共に会場を去った。
絶対に勝つと決めたのに、ユニフォームがないという騒ぎがあって、遣る瀬無い気持ちは高見氏率いるチームに頼む。
会場から出る前に、彼女が笑って、絶対勝ってね、と言っていたことをしっかり伝えれば、彼らはしっかりと頷いた。
そして、セナくんの提案に乗って俺たちはユニフォームを取りに走ることにした。

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