悪魔の寵姫 | ナノ



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太陽に恋して翼をもがれた

飛行機に乗り込むと、彼女がにっこり笑って此方に手を振ってくれた。
が、すぐに近くにいるサングラスの赤い髪に声をかけられそちらに意識を向ける。
かと思いきや、進清十郎に話しかけられて、ニコニコと笑顔を浮かべた。
引っ張りだこと言えば良いのだろうか、想像以上に彼女は求められているようだ。
ふと、氷雨が此方に近づいてくる。

「鷹くん、ちょっといい?」
「氷雨さん?俺に何か…?」
「今まで連絡係お疲れさまです、ということで、どうぞ」

鷹か…と思いながらも何を渡すのか気になってそちらを見る。
小さな紙のそれを見て、鷹は笑う。
可笑しさを抑えきれないというような笑顔に氷雨さんはへらりと笑い返した。

「すぐには決まらないかなぁと思いまして、私も忘れないように『肩たたき券』的な感じなら良いかなと」
「それで『何でもお願い券』」

ガタッ、とそこら中から音が聞こえた。
当の本人たちはお互いの会話に集中しているのか、特に気がついていないようだ。

「ちなみにそれは鷹くん用なので、譲渡出来ない仕様になっています」
「俺用ってことは、他にもあるの?」
「鈴音ちゃんとまもりちゃんにはありますが、それだけです」

是非使ってくださいね、と笑う彼女は、会話を切り上げるつもりだろう。
そう思って、氷雨に手を伸ばす。
が、その手が届く前に、フライトの準備が整ったとアナウンスが入った。
あっ、と声を上げた彼女は慌てて自分の席に戻っていく。
タイミングが悪いな、と肩を落として、でもこれから長い時間一緒にいるのだから、と自分を励ました。


到着したアメリカでも、中々話す機会がなかった。
氷雨は日本チームのサポートメンバーを含めた全体の中心にいるのだ。
その所為で彼方此方走り回っている彼女に声をかけるタイミングが中々掴めない。
いや、きっと話しかければ嫌な顔一つせずに対応してくれるだろう。
だがその間に滞った内容をそのあと一気にやらなくてはならないに違いない。
今もその手の中のバインダーを見ながら、チアリーダーについての内容を確認している。
ふ、と氷雨が辺りをキョロキョロと見回す。
どうかしたのか、とその顔を見ていると目が合う。
その瞬間、氷雨はふわり、と柔らかく笑う。

「大和さん、お聞きしたいことがあるんですが、大丈夫ですか?」

小走りで駆け寄ってきた彼女に頷いて、どうしたんだい?と問いかける。
氷雨は首を傾げて、目をじっと見つめてきた。

「まず、体調は問題ありませんか?」
「俺の…?」
「はい、皆さんに聞くつもりではあるのですが、先に留学経験のある方から、と思いまして」
「なるほど。なら、俺も一緒に聞こうか?もし、経験したことならその場でアドバイス出来るだろうし」

提案すると、彼女はぱちりと瞬いて、目を大きく見開く。
それから、少し考えるようにして、指を折り数えた。
少しだけ恥ずかしそうに眉を下げて、頬を染めて、氷雨は顔を上げる。

「その、お願いしてもいいですか?」
「勿論だよ」

にっこり、笑って告げると、嬉しそうな笑顔に変わる。
ありがとうございます、大和さん、と丁寧な言葉にふと、思いついた。
その代わりと言ってはなんだけど…という俺の言葉にはい?と首を傾げる。

「俺のことも名前で、ね?」
「…猛くん、で良いですか?」

丁寧に呼ばれた名前に、名前が大切に呼ばれていると言っていた鷹の気持ちがわかって。
何だか酷く、ホッとした。

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