悪魔の寵姫 | ナノ



62
しおりを挟む


優しさに抱き込まれ

小早川セナが困ったようにしながら、彼女をじっと見つめる。
その視線を受けた氷雨さんはニコニコと笑って、自分の携帯電話を取り出した。

「ええと、阿含さんと、峨王さんに連絡すればいいんだよね?」
「お、お願いします…」

その言葉ににっこり笑って、気にしないで、と告げてすぐに耳に携帯を当てる。
どうやら先に金剛阿含に電話をしているらしい。

「阿含さん、今週中で空いている日はありますか?」

柔らかく笑みを浮かべたまま、ゆっくりと表現できるくらいの速度で彼女は口にする。
金剛阿含の言葉をすべて聞いてから、一拍おいて返事をしている。
他の誰とも異なるテンポでの会話を続けていているようだ。
その所為か、小早川セナの時のような音が漏れる程の大声は聞こえてこない。

「阿含さんも主力選手ですから、お話を聞かせていただきたいんです、ダメでしょうか?」

彼女のその問いの後、彼女は二言発して、電話を切った。
そしてそのままもう一人に電話をかける。
今度は先ほどよりも強い声の色で、単純明快に話を進めた。
先ほどの金剛阿含との会話よりもスムーズで流れるようなそれは、短時間で終わる。

「ありがとうございました。では今から、お迎えに上がります」

ぴ。
機械音を立てて、携帯電話を仕舞った氷雨さんはにこりと微笑んだ。
小早川セナを見て、雷門太郎を見て、二人の頭を撫でる。

「峨王さんもOKだそうです。それから、お二人とも、今からの話し合いに来てくださるそうで」
「す、すげーッスね…流石、氷雨さん」
「僕には出来そうもないです…主務の筈なのに」
「適材適所、ってことで良いんじゃないかな?」

ぱちり、瞬きながら彼女は告げて、にっこりと笑った。
駅の入り口で彼女は自分のバイクに跨がって、待ち合わせ場所を告げる。
金剛阿含は他の方法でやってくるらしく、彼女が迎えに行くのは峨王力哉ただ一人。


氷雨さんがいないテーブルで、話し合いが始まった。
先に始めててください、と笑った彼女は、商品ができるのを待っているらしい。
話し合いの最初に特定の選手名を口にしたのは峨王力哉だった。

「俺とパワーで並ぶ唯一の漢、栗田だ」
「あ"〜?使えるかよ、あんなカス」

金剛阿含が不満そうに口にしたことで、会議がその形を崩す。
峨王力哉はテーブルを二つに割り、金剛阿含は戦闘態勢に入っていた。
水を安全なソファーの上に移してから、間に入り、受け止める。
己を過信していた訳ではない…だが、恐るべき腕力だ、峨王力哉。
ぐ、と眉を寄せていると、驚いたような声が割って入った。

「何してるんですか!阿含さんも峨王さんも、選抜チームに入れませんよ!」

慌てたように駆け寄ってきた氷雨さんは、自分自身のトレーを小早川セナに渡して、俺に近づいた。
ふわりと柔らかな動きで俺の腕に触れながら、見上げてくる。

「何処か痛む所とか、ありませんか?大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」

頷いてみせれば安心したように、目許を和らげた。
が、すぐにその目を凛々しくつり上げて、峨王力哉と金剛阿含を見る。
そんな目を向けられようと、二人は歯牙にもかけない様子で見返していた。
とはいえ、選抜から外されるのも困るのだろう。
氷雨さんを手伝う意味でも、二人の間に立ったまま、声を上げる。

「ラインマンのことを最も良く知るのはラインマン、各ポジションの専門家の意見を尊重すべきだ」

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -