61
綺麗なものだけでつくられたの新幹線で帰るという大和猛、本庄鷹を見送りに新幹線のホームまで向かう。
改札に入ろうとした瞬間、後ろから手を掴まれる。
「清十郎さん、ちょっと待ってください」
「?」
「春人さんからのメールは…あった、えっと『氷雨さんに触る時位のソフトタッチで!』お願いします」
え、私?と驚いたように首を傾げる氷雨さんの手は、未だに俺を掴んだままだ。
確かに、最近桜庭にビデオカメラに触るときやパソコンに触るときによく言われる。
わかりました、と頷いて、入場券をそっと入れた。
心配そうに見つめている彼女の視線を受けながら、出てきた切符を取り、改札を抜ける。
後に続いて出てきた氷雨さんは、嬉しそうな顔で笑った。
「出るときも同じ感じでお願いしますね」
その言葉に頷くと、不思議そうな4組の視線を感じる。
隣に並んだ氷雨さんは、くすくす笑って、俺を見上げた。
「秘密です、ね?」
「はい…?」
よくわからないが、頷いておく。
ふふ、楽しそうな彼女は、俺の手をとった。
それから、行きましょう?と首を傾げる。
「氷雨、」
「何ですか?」
ぱちり、瞬きながら、声をかけて来た大和猛を見上げた。
そんな彼女に微笑みながら、手を差し出す男。
不思議そうに顔を見返して、少し照れたように彼女はその手に自分の手を重ねる。
「両手に花ですね。」
「え、花ですか?」
小早川セナの驚いたような顔に、にこにこと頷いた。
突然弱く引っ張られて、そうした彼女に視線を落とす。
嬉しそうに笑って、首を傾げた。
「だって、ほら、二人ともかなり格好いいじゃない。」
「…氷雨さんって、そんなキャラでしたっけ?」
「ふふ、ちょっとテンションが高いのかも?」
くすくすと可愛らしい笑みを零して、どの新幹線ですか?と電光掲示板を見上げる。
じっと無機物を見つめる横顔は、どこか真剣で、それと同時に、とても柔らかそうで。
思わず、手が伸びた。
いつも以上のすべらかな肌触りに、柔らかな感触。
唇はどれ程柔らかいのだろうか、と触れたい気持ちが頭をもたげる。
「清十郎さん?」
「氷雨、さん」
「氷雨さん、今回はありがとう」
本庄鷹が、彼女の意識を攫うように話しかけた。
ぱちりと瞬いて、そちらへ向いて、優しく微笑む。
「いえいえ、わざわざ来てくださってありがとうございました」
「氷雨の手料理が食べられるなら、何度だって来るよ」
彼女の言葉に大和猛が笑いながら返す。
くすくすと笑みを零しながら、氷雨さんはもう一度ありがとうございます、と繰り返した。
それからふと思い出したように、鞄から一つの包みを取り出す。
「余計なお世話かと思ったんですが、一応、お昼用ににおにぎりを、」
彼女が言い切る前に、二人はその包みを受け取るために手を伸ばす。
眉を下げて照れくさそうに笑った氷雨さんが、自分と同じ生き物だと思えなかった。