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無性に今君に会いたい新年は、東京で迎えることになりそうだ。
家族全員それぞれの予定があるし、大丈夫だろう。
そう思いながら、大和に声をかける。
「大和って、毎年新年は実家だっけ?」
「え?いや、違うけど」
不思議そうな声に、そう、とだけ返して、携帯を取り出した。
途端、大和が携帯を持つ手に手を重ねてくる。
不快感に眉を寄せ、いきなり近づいてきた男に目を向けた。
無言になって、強い握力に対抗する。
「自分ら、何やっとるん?」
「…アキレス氏、ちょっと鷹が抜け駆けしようとしてたからね」
「違うけど…連絡させてくれないとそっちの方が大和の言う抜け駆けになるよ」
そう告げれば、すぐに解放された。
さあ、電話したまえ、とでも言いたげににこやかに笑う顔に顔をしかめる。
無言のまま、相手を見て、ハァとため息を吐いた。
履歴から電話をかける。
呼び出し音が流れて、すぐに明るい声が聞こえた。
「鷹くん、どうかしましたか?」
「31日から1日にかけてそっちに泊まるから」
「はい、えっと、鷹くん一人ですか?」
「いや、大和もいるよ」
「お二人ですか、了解です。お食事はどうします?」
その言葉に無言になる。
電話口を肩に押し付けて、声が聞こえないようにした。
大和を見て、問いかける。
「食事どうする?」
「え?そうだな…」
考え込んだ大和は、何か言いかけて、じっと俺を見た。
それから、にこりと笑って、告げる。
「鷹にあわせるよ」
「…そう」
自分が思ったよりも不機嫌な声が出て、自分でも驚いた。
とはいっても、いつもとそれ程大きく違う訳じゃない。
すぐに電話を戻す。
「大和の分もお願いしていい?」
「了解です」
その声に、うん、と肯定を示した。
じゃぁ、と電話を切ろうとしたときに、あ、と声がかけられる。
「なに?」
「鷹くんは甘いもの食べられますか?」
「え、ああ…大丈夫だけど」
「じゃぁ、鷹くんにだけ特別にデザート用意しておきますね」
「…氷雨さんが作ってくれるんだよね?」
電話の向こうが一瞬黙って、不思議そうに声が返ってくる。
「え、それで良いんですか?」
「うん。後でメールする」
「あ、はい、お待ちしてますね」
きっと驚いた顔をしてすぐに微笑んだのだろう。
柔らかな声を聞いてから、電源ボタンを押した。
どうしても、と言う訳じゃないけれど。
ただ、その笑顔が、見たいと思った。