悪魔の寵姫 | ナノ



58
しおりを挟む


決まった時間、決まった行動

あ、と気がついて、携帯電話を持つ。
大和や花梨の視線を感じるが、無視して、電話を開いた。
同時に、着信音が鳴る。
通話ボタンを押して、耳に当てた。

「ごめん、」
 「大丈夫ですよ、練習もあるでしょうし…今平気ですか?」
「うん、大丈夫。それで、そっちはどう?」
 「大きな行動はまだまだですけど、それとなく、予定は聞いてます」

その返事に、少し、眉を寄せる。
嫌な予感がして、思わず、言葉にしていた。

「どういう風に?」
 「え?普通に、3月までに大きな予定ありますか?と」
「…そう」
 「駄目でしたか?」
「いや、駄目じゃない、けど」

駄目ではないけど、駄目だ。
明らかに、それとなくすぎるだろう。
なんて思っても、口にすることができない。
俺が黙っていると、どう思ったのか、会話が続けられる。

 「皆さん予定は空けてくれるそうです」
「ああ…うん、そう」

気の抜けた返事しかできなかった。
彼女の周りにたくさんの男たちがいて、独占欲に近いものを見せているチームメイトを見て。
関東の主力たち全員のアドレスを知っていた時点で、怪しいとは思っていた。
だが、此処までとは。
予定を“空けておく”のではなく、“空けてくれる”つまり、他の予定をずらすことまで可能だと。
彼女のためなら他人に頭を下げるのも、できると言うことらしい。

「じゃぁ、あとでそっちに行くことになるんだけど」
 「宿泊場所の手配はできますから安心してください」
「ありがと」
 「いえいえ、ただ、食事は私が作ることになってしまうんですが…大丈夫ですか?」
「え…あ、大丈夫、です」

意図せず、敬語になってしまった。
が、彼女は嬉しそうに、嫌いなものとか好きなものは前もってメールか電話してください、と続ける。
なんて自由なんだ、と思うが、その自由さは嫌いじゃない。

「手料理、楽しみにしてる」
 「はい!頑張りますね」

ああもう、こんな風に予定を聞かれたら、確かにデートの誘いだと思っても仕方ない。
しかも、予定を空ける、と応えれば、嬉しそうにあの笑顔で、頷くのだろう。
そしてありがとう、とまた連絡します、と。
…何かイラッとした。

「氷雨さん、」
 「なんでしょう?」
「次は俺から電話するから、」
 「はい、待ってますね」

彼女の笑顔が目の前に浮かんでくるようで。
電話を切ったあと、ぼんやりと思う。
世界大会があるからこそ、定期連絡役として、俺と彼女は電話している。
でも、この大会が終わったら、彼女と連絡することはできるのだろうか…。
また逢いたい、と伝えれば良いのだろうか。
そう思いながら、視線を動かす。

「大和、そのすごい目はどうにかしてもらえる?」

ジト目で見ていた大和にそう言って、携帯をしまった。
[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -