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君は、なにしてる?楽しそうに笑う彼女は、花梨の手をとって話しかけている。
隣に座りたくてソワソワしている大和なんて視界に入っていないと言わんばかりだ。
「花梨ちゃん、クリスマスプレゼントです」
「え、ええっ、私にですか?」
「はい、もらってくれますか?」
「私なんも用意してへんのですけど…」
いつものように眉を下げた花梨に、彼女は首を大きく左右に振った。
はい、と小さな箱を手渡して、年齢不相応な笑みを浮かべる。
その表情は…いうのならば、悪戯っ子のような、と表現するのが良いのかもしれない。
「気にしないでください。花梨ちゃんに似合いそうだと思って買ってしまっただけですから」
クリスマスにかこつけて受け取ってもらいたいだけです。
くすくすと笑った彼女は、その後暫く俺たちと一緒にいた。
が、雪合戦が始まりそうになった頃、申し訳なさそうな顔をして、帰宅準備を進める。
微笑んで、また明日、と手を振った。
翌日。
彼女は、泥門のベンチに座っていた。
色々な人に笑いかけながら、こちらを見ることもない。
自信満々に微笑んで、集まった彼らに声をかけた。
「…信じてる」
「容赦ねぇお姫様だな?」
司令塔ヒル魔が笑う。
完全に不必要な緊張がない彼らの中心で、彼女は楽しそうに目を細めていて。
彼女の表情は、変わらないまま、試合が始まった。
向い合って顔をまじまじと見たのは、試合が終わってからだった。
「これから、私が世界大会についても連絡させていただきます」
そう言って、綺麗に頭を下げた彼女に、こくりと、頷き返す。
穏やかに微笑んだ彼女の目には、涙の後があった。
思わず、手を伸ばして、触れる。
柔らかくて、滑らかで、とても心地よい肌だ。
ぐいぐい、と拭うように触れると、驚いたような顔が苦笑に変わる。
「私は大丈夫ですよ、本庄さん」
「…鷹で、いいです」
俺の言葉にきょとんとしてから、こくりと頷いた。
それから、優しげな笑みを浮かべて、真っ直ぐに俺を見上げる。
「これからもよろしくお願いしますね、鷹さん」
名前が、大切に呼ばれている気がした。
たか、という名前が、宝物のように思えて。
思わず、驚いた顔で彼女を見つめた。
と、一拍おいて不思議そうに彼女が首を傾げる。
「鷹くん、の方が良かったですか?」
「あ、えっと…、」
「話し方ももっと楽にしてくれても良いですよ」
もちろん、そのままでも構いません。
にこり、笑った彼女は、後ろからの声に俺から視線を逸らす。
「厳くん、なぁに?」
「一年どもが探してたぞ」
はぁい、と甘い声で返事をした彼女は、振り返ることはなかった。