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思いの全てが伝わると思うこと12月25日までは、まだ時間がある。
とはいえ、帝黒学園に勝利するには、まだまだ力が足りないだろう。
基本的に彼女は、俺たちの世話をしてくれている。
だが、今日は何処か申し訳無さそうに俺たちを伺っていた。
「どうしました?」
「高見さん。阿含さんに電話したら、明日バイクで大阪に来いと言われまして」
一応、妖一さんに確認したら、行って来い、と。
眉を下げて、お手伝いが出来ないと申し訳なさそうに謝る姿に、むしろ、此方が申し訳なくなる。
「弟がすみません」
「いえ、雲水さんの所為じゃないですよ」
くすくすと笑いながら、彼女は首を傾げた。
そういわれても、俺の申し訳ない気持ちが無くなることはない。
そのことに気がついたのか、思いついたように、俺の手をとる。
突然の彼女の行動に、驚いて体が固まった。
「もし、悪いと思われるなら、今度、埋め合わせしてください」
「…え?」
「お買い物に付き合ってくれるのでも、お食事について来てくれるのでも良いですけど」
ニコニコと楽しそうに笑って、俺を真っ直ぐに見る。
周りからすごい目を向けられたことに気がついて、思わず体を引いた。
だが、彼女は特にそういった意味があって、俺にそう告げた訳ではない。
口元を少しだけ緩める。
「貴女が誘ってくれるのならば、何処にでもお供します」
告げれば、彼女は驚いたようにぱちりと瞬いた。
しかし、すぐに嬉しそうに笑って、こくり、頷く。
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
口角をあげて、俺を見上げた。
ぎこちなく言葉を返して、慣れないことをした疲れがでないことを祈る。
翌日。
練習がほとんど終わった時間帯に、彼女がバイクで泥門に現れた。
華奢な彼女の体には似合わない大きなバイクに乗っていたのは、彼女と阿含。
彼女の細い腰に腕を回している様子を見ると、酷く、不安になる。
腕の太さや筋力は俺と阿含でほとんど差はない。
双子で才能の差があるとは言え、身長体重共に等しいのは昔から変わらない。
今はドレッドの所為で阿含の方が幾分か重いのかもしれないが。
「ほら、阿含さん、降りてください。疲れたでしょう?」
「マッサージ」
「特別ですよ?ほら、先に部室に行っててください」
犬を追い払う時のような手の動きで、阿含を追いやる。
そんな扱いを享受していることからもわかるが、やはり、阿含は彼女を気に入っているのだろう。
だが、いつものように適当に手を出してはいないのか、阿含曰く“ガードが硬い”のか。
彼女が阿含との関係を持っている様子はない。
「糞ドレッドが、なぁ…?」
「阿含氏も男だったってことかね?」
すぐ隣でケケケと笑いながらのヒル魔としみじみと言ったようなキッドが言葉を交わす。
ちらり、とこちらを見てくるのは、俺に反応を求めているのだろうか。
「いや、どちらかと言うと、血は繋がってる、って方じゃねーか?」
泥門のキッカーが肩をすくめる。
全員をじろりと睨め付けると、彼らはにやりと笑って返した。
「おお怖い、金剛兄弟もライバルとはね」