悪魔の寵姫 | ナノ



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全てを知りたがること

その女性を初めて見かけたのは、いつだったか。
ただ覚えているのは、彼女を見かけて、酷く不安を覚えたことだ。
何故なのかはわからないが、それでも。

「雲水さんもようこそ」

目の前で微笑んだ彼女は、ティーカップを差し出してきた。
どうやら、紅茶らしい。
外で紅茶を渡すと言う行動が理解できずに、ただただ見返す。
彼女は視線をあわせて、にこりと笑いながら、こっちです、と声をかけた。
俺に差し出したティーカップを持ったまま、扉を開ける。
カジノがあった。

「…」
「あ、やっぱり驚きますか?皆さん吃驚するみたいで」
「いや、これは普通驚くだろう」

そう答えながら、視線を中にいた顔ぶれに向ける。
西部のキッドと甲斐谷、巨深の筧と水町の4人が此方を見返した。
彼らの手元にはティーカップが置いてある。
そのまま席に案内されて、目の前に新しく淹れられた紅茶が置かれた。
流れがよく理解できないまま、流されていると、目の前の水町が俺をじっと見る。
そこで、ふと思い出した。
そういえば、水町は阿含に腕の関節を外されていた気がする。

「…阿含が、迷惑をかけたな」

そう声をかければ、ンハッとよくわからない声を上げて、大丈夫大丈夫、と続けた。

「あのあと、氷雨ちゃんがお見舞いにきてくれたから、ねー?」
「…聞いてないぞ」
「だって、言ってねーもん!氷雨ちゃんの手作りお菓子もらっちった」

マジちょー美味しい、と続ける水町に、少しホッとしながら、彼女に視線を向ける。
くすりと笑った彼女は嬉しそうに、鞄からクッキーを取り出した。
それを水町に手を渡して、悪戯っぽく笑う。

「今回、協力してもらうお礼です。健悟さんはきっと、これで良いんですよね?」
「マジ?もらっていいの?」
「もちろんです」

それから、続いて包まれたタオルをいくつも取り出す。
水町以外の俺たちに手渡した。

「皆さんへのお礼です」
「協力は、無償って話だけど…」
「ええ、このタオルはただのお手伝いですよ」

くすくすと笑いながらキッドに返す。
だって、泥門は関係なく、成人である私からの、ちょっとした応援ですもの。
目を細めて、首を傾げた彼女に、キッドは帽子を深く押さえた。
肩をすくめる彼の姿に、その隣にいた甲斐谷も何やら難しい顔をする。

「“悪魔の寵姫”は侮れないねぇ…」
「…何ですか、その渾名」

明らかに嫌そうな表情をしている。
その表情を見た水町が、氷雨ちゃん顔、と声をかけるくらいには険しい。
そういえば、と自身の鞄に入っている雑誌を取り出す。
ペラペラと捲ると、目当ての頁が出てきた。
泥門の勝利の理由その1:“悪魔の寵姫”の存在
という見出し記事。
それを見ている俺に気がついたのか、筧が彼女を呼び、俺の隣から覗き込む。
言葉を失った彼女は、片手を頭に添えた。
そして呆れたようにため息を一度つく。

「通りで、妖一さんに見せてもらえない訳ですか」
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