悪魔の寵姫 | ナノ



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君にみてもらいたい

泥門の祝勝会の船上パーティーに足を運ぶ。
そこにはドレスを着た氷雨がいた。
先ほどと同じように首を隠していたが、話しかける暇もなく控え室に通される。
サイズがぴったりの黒服に着替え、出番を待った。
ノックが響き、番場が扉を開ける。

「こんばんは、番場さん」
「何故此処に?」
「皆さんに報酬のお渡しですよ」

くすくす、と笑いながら、扉を抑えた。
その後ろから、泥門のチア数人がカートを押して入ってくる。

「といっても、現物支給と言う形になりますが。」

カートの上には料理が乗っていた。
それぞれの前に置かれるそれは、好みに寄っているのだろう。
俺の目の前は、綺麗に肉のみだ。

「どうぞお召し上がりください」
「待て、」

そのまま出て行こうとした氷雨を呼び止める。
不思議そうに振り返る顔に視線を向けた。
何度か瞬きながら、その場に足を止める。

「どうかされました?」
「此処に居ろ」

俺の言葉に、一瞬虚をつかれたような表情を浮かべて、すぐに微笑んだ。
それから、視線を彷徨わせて、端に置いてあった椅子を引き寄せて、離れた場所に座る。
お食事が終わったら呼んでください、と笑って、携帯電話に触れた。
その場で、声を少し潜めて、話を始める。
相手はどうやらヒル魔妖一らしい。

「なら、私が送ります?バイクだし」

電話をしながら、くすくすと笑う様子を見せる。
じっと見つめて、眉を寄せた。
こちらをチラとも見ないその横顔が気に触って、立ち上がる。
ゆっくりと彼女に近づけば、影ができたのか、驚いたように此方を見つめた。
その反応に少し気分が和らぐが、それでもなお、何処かつまらない。

「え、ああ、はい、そうですね」

俺を見ながらも意識は電話に集中しているからだろう。
ゆっくりと手を伸ばして、抱き上げる。
妹を抱き上げるときのような、無理のない力の入れ方で。

「ちょ、峨王さん?!」
「電話を続けていて構わん」
「いや、構わん、じゃなくてですね」

ついに電話を離して、此方に話しかける。
反論を無視して、先ほどまで座っていた場所に戻った。
驚いたように目を見開いて此方を見ている番場の顔に腕の中の氷雨がビクッと動く。
だが、番場はそれに気がつかないのか、俺の顔を凝視していた。

「が、峨王…?」
「大丈夫です、はい、じゃぁ、後で」

なんとか電話を終えたらしく、携帯電話をしまう。
ぽんぽん、と肩を叩かれながら、幼子に言い聞かせるように笑った。

「吃驚してしまうので、こういうことはやめてくださいね?」

その言葉を鼻で笑って、時間が来るまで体勢を変えず食事をしていた。
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