悪魔の寵姫 | ナノ



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君から大切なものを奪いたい

「別に、過剰摂取って程、糖分摂ってないですよ?」

だから、返してください。
眉を下げて続けたその手にコーラが返ることはなかった。
コーラを奪った人間の隣から、背の高い眼鏡が現れ、コーラを取る。
それから、更にその横にいた大田原にそれを渡し、飲み干させた。
その一連の流れを見て、不満そうにする氷雨に近づく。
俺に気がついたのか、視線をあわせた。

「峨王さんも、お疲れさまです」

返事はせず、じっと見つめる。
ぱちり、と一度瞬いて、氷雨は素早く近くにいた男の後ろに隠れた。
眉を吊り上げて、唇を尖らせる。
俺がしようとしたことに気がついたのだろう。
首の包帯を抑え、不機嫌そうな顔になる。

「だめです」
「何故だ?」

問いかけると、困ったような顔をして、肩を落とした。
それから、盾にしていた男と、俺の手を片手ずつ取る。

「氷雨ちゃん?!進氏と峨王をつれてどこに行くの?」

キッドが声をかけてきた。
俺たちを引っ張っていた、というよりも、こちらに来いと意思表示をして先を歩いていた氷雨が振り返る。
いつもより凛とした表情で、一度頷く。

「この二人に常識を教えてきます」
「…常識?」
「はい。人間にいきなり噛み付くのはいけないことだと、知ってもらう必要があるかと思いまして」

会場が静まり返った。
甲斐谷が弾かれたように走ってきて、俺たちを引いていた小さな手を外させる。
その両手を掴み、顔を近づけた。
驚いたように瞬いて、すぐに目を丸くする。

「氷雨さん、まさか、許したりしてない、ですよね?」
「え?清十郎さんは謝ってくれたので許しましたけど」
「な…な、」

口を開けたり閉じたり。
いきなり俯いて黙り込んだかと思えば、そのまま握った手を引いて、西部の元へ向かう。
キッドにその手を持たせて、此方に駆け寄ってきた。

「…とりあえず、理由はなんですか」
「ふむ…衝動的に、だな。」

気がついたら、二の腕を甘噛みしていた。
そう続いた言葉に、よくわからないと言った表情で説教されている氷雨に視線を向ける。
二の腕か…それは考えなかった。

「で、峨王は?」
「氷雨が欲しいからだ」

歯を見せて笑う。

「あの女を俺のものにすると言う意志表示だ」

驚いた表情と冷たく向けられる視線。
そのどちらもに面白くなる。
直接告げてはいないものの、俺の聞こえたらしい男たちが、此方を見た。
敵意ある数々の視線に、欲しいと、自身の想いを再確認する。
全てを蹴散らし、氷雨を手に入れること。
それは想像するだけでも、ゾクゾクと高揚感を得られる。
怖い女だ、と思いながらも、そちらに向かった。
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